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『法廷』事務官の席に着くのと殆ど同じくらいに、代行執務官の若葉さまが治安『法廷』の扉を開けて入っていらっしゃった。 「おはようございます、若葉さま」 「おはよう、今日も早いね」 とっても優しい笑顔の若葉さま。いくらこの治安『法廷』が人気の無い部署だからといっても、若葉さまのお年で代行執務官として任官するのは並大抵のことではない。『判事』さまが若葉さまの能力を高く買われたからこそのこと。もしもそれだけの能力が無ければ、治安『法廷』であっても代行執務官になることは絶対に不可能だった。 だって、『判事』さまに万が一のことがあったり、ご都合で職場を離れられるときには、代行執務官に『判事』代行として全ての権限を委譲されるのだから。 「『判事』はもう？」 「はい、・・・お泊りでいらしたそうです」 「また？・・・」 若葉さまはコートを脱ぎながら、眉を寄せられた。 若葉さまは法律大学での『判事』さまの後輩でいらっしゃるから、通常の代行執務官と『判事』以上の絆がある。いつも根を詰めてお仕事される『判事』さまのお体を心配していらっしゃって・・・。 「このところ、マトモに官舎に戻っていらっしゃらないんじゃないか？」 事務官はあまり差し出口を利くものではないけれど。私はそっと頷いた。 「私が登庁してくるより早くからいらっしゃる時は、お泊りになられた時だけです」 「・・・最近、多いの？」 「・・・はい」 若葉さまはもう一度眉を寄せられた。『判事』さまはあまりお体がお強くないのだけれど、『判事』さまにしか出来ないお仕事や、『判事』さまだからこそ出来るお仕事ばかりで、無理をしないようにしていただきたくても、そんなことは言っていられないような状態がずっと続いている。けれど、代行執務官が『判事』に向かって忠告することなどできるはずがない。 「今日は早く帰れるように頑張ろうね」 若葉さまは思い直したようにそうおっしゃって、にこっと微笑まれた。 「はい！」 |