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「あなたではこの世は救えない」 根気の良いことだ。 また、あの夢が始まった。近頃、夢を見ることは殆どなかったのに・・・。 「あなたは破滅する。あなたは消滅する。あなたは崩壊する」 そう、いずれはね。 いずれ、そう遠くないいつの日か、私は破滅して崩壊して消滅する。そんなこと、いちいち教えてもらわなくてもわかっている。 「ドクターストップがかかってからでは遅いんですよ」 「・・・大丈夫だよ」 私ではなく、「治安『判事』」が居なくなっては困るから。『ガーディアン』たちを束ねる人間がいなくなっては困るから、ただそれだけの理由。それなら話は簡単だ。私でなくとも『ガーディアン』機構は存続させられるし、それだけのシステムは作り上げた。 ・・・本当に？・・・ ざわ、と周囲がざわめく。 「『判事』だ・・・」 「合同会議か？」 『警察庁』庁舎に『判事』の姿が見えることは殆どない。それが、十人近い『判事』たちの一団が居るとなると、『法廷』と『警察庁』の合同会議開催くらいしか考えられない。 「合同会議」。 またの名を、『重大凶悪犯罪者指定会議』。数年前、『警察庁』から事件を毟り取るように管轄移牒させた『判事』がいる。『警察庁』関係者は皆悔しがったが、大口を叩いて事件を取り上げただけあって、十日もの間、全く行方をつかめなかった犯人を即日処理してしまったあの日の出来事は、未だに彼らに『判事』に対する必要以上の畏怖と警戒の念を覚えさせる原因となっている。 「翡翠」 『判事』の一人が、足を止めた。 「・・・やあ。久しぶりだね」 「顔色が悪いな。死に掛けているのか」 「ご挨拶だね」 さすがに苦笑する翡翠に、人事部係長はちらりと『大判事』たちを眺めた。 「合同会議か？」 「いや、ランキングの調整をしに来ただけだよ。もう戻るところさ」 「時間はあるか？コーヒーでも付き合わないか」 「今小銭の持ち合わせがないんだけど」 「私は、飲ませてやると言ったつもりなんだが？」 「だから、今は小銭を持ってない・・・」 揚羽はもちろん、翡翠も混乱した表情でお互いに見つめあった。しばらくして、疲れたようなため息が翡翠の口からこぼれた。 「・・・最近『奢る』という言葉の使い方に自信がないんだよ」 「おかしなヤツだな」 「ご馳走になるよ」 「翡翠、ちゃんと夜は寝ているか？」 法律大学の同期、揚羽はいまや『警察庁』人事係長、課長補佐という職についている。エリートと呼ばれる人事課において、女性が肩書きのつく役職につくことは初めてと言うのだから、揚羽がいかに期待されている才媛であるか、十分に推察できるというものだ。 応接ソファーに案内された後、人事課秘書がコーヒーを出してくれた。 「治安『法廷』は激務を極めるとはいえ、・・・おい、何をしている」 「え？」 シュガーポットをしげしげと覗き込んでいる治安『判事』の挙動不審な行動に、揚羽が眉を寄せる。 「あ、いや、小さいなと思って」 「お前、そんなにたくさん砂糖を使うのか？体に毒だぞ」 「僕が使うんじゃない」 むっとした表情でシュガーポットを閉める翡翠。 「昔からブラックだよ」 「じゃあ誰が使うんだ」 「・・・孔雀と、お客さん」 「あいつは客じゃないのか」 「何で僕がお客さんに三度の食事とコーヒーをたかられ続けなくちゃならないんだ」 揚羽は肩をすくめた。 「まあいい。それより、人の質問にはちゃんと答えろ」 「え？ああ、寝てるよ。一応ね」 「一応って」 「どうしても、睡眠時間は短くなるし・・・」 「あなたは破滅する」 「なるし？」 「・・・いや、なんでもない」 |