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「とーちゃんのばかやろー、何で起こしてくんねーんだよー！」 形相を変えて部屋中を駆け回っている光をぼーっと眺めながら、宗佑はぼんやりとタバコに火を点けた。 「もー、遅刻したらとーちゃんのせいだからな！」 「いつも自分で起きてるだろ」 「だからって放っておく親があるかよ！」 「・・・なあ光」 「何さ！」 「近寄るな」 「何に！」 「あの女に」 光はぴたりと動きを止めた。 「・・・どういうこと？」 「涼子に気を遣う必要はない。お前が動く必要ないだろ」 「そりゃそうだけど。・・・どういう風の吹き回し？」 「俺は真面目に言ってるんだ」 「俺だって真面目に聞いてるよ」 光はソファーに座り込んだ。真面目に登校するふりをするのは止めたようだ。 「俺だって聞いて知ってるからね。自分で近づく気なんか全然ないけど」 「それでも近寄ってくるのがあの女だ。そうだろう？」 「そりゃ・・・」 「第一、お前は格好の獲物だ」 光は肩をすくめた。 実際、光はカネと暇の有り余った女が手元に置いて愛玩するには格好の見栄えの良い人形だ。その上に、決して小さくはない力が手に入るとしたら？誰だってそんな「おいしい」獲物は見逃したくないだろう。 「お前が思っているほど、あの女は甘くない」 「・・・父さん」 光の唇が、笑いの形を作った。 敵は言うに及ばず、味方でさえ肝を冷やす、光の冷たい笑い。宗佑でさえも、「敵」として見たいとは思わない、剣呑な笑みだった。 「あの女も、そう思ってるよ」 「お前、まさか・・・」 「もう遅いよ。ゲームはもう始まってる」 どちらが勝つのか、どちらが負けるのか。 負ければ地獄へ堕ちる、命懸けのゲーム。 「二度と表を歩けないようにしてやるよ」 光はにっこり微笑むと、通学カバンを肩にひっかけた。 「あっ、最後のバスが行っちゃったじゃんか！センセに怒られたらとーちゃんのせいだかんな！」 慌てて家を飛び出す光の背中を見送って、宗佑はぽつりと呟いた。 「末恐ろしいガキ」 |