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「親子そろって遅いお帰りね」 鍵を差し込もうとしていた宗佑の手が、びくりと震えるほど、その声は唐突にかけられた。 「・・・脅かすなよ」 「あら、驚くような覚えでも？」 にっこり微笑んだ美女が一人。だが、この美女はただの美女とは一味も二味も違う上に、一癖も二癖もある。 「とーちゃーん、早く開けてくんないと俺門限破りになっちゃうよー」 こんなときに思い切り緊張感を削ぐヤツだ。宗佑はぐずぐず文句を言う光を振り返って言った。 「うるさいな、親と一緒なんだからかまわないだろ！」 「そんないい加減なこと言ってるから、子供が非行に走るんだぞ」 「けっ、そんなガキのアソビはとっくに卒業してるくせに何を言いやがる」 むっとした表情になったが、さすがに黙り込んだ光から再び視線を女刑事に向けると、涼子の視線は光に向けられていた。 「光クン、ちょっといいかしら？」 「ダメでございますわ」 「手帳を振りかざしたくないんだけど？」 間髪入れず断りを言った光に即座に返した涼子を見て、宗佑は光と目を見交わした。 「・・・面倒ごとはごめんだよ」 「キミが何も疚しいことをしていなければ、何も問題は起きないわ」 「ちぇ」 光は肩を竦めた。 「とーちゃん、おっかない刑事さんが御用だってさ」 「ま、とりあえず中でお話をお伺いしましょうか？」 むさ苦しい事務所兼用の部屋の中は、それでも幾分片付いていた。それというのも、光が案外に綺麗好きで、見苦しく取り散らかしているのを嫌ったためだ。光に叱咤されて部屋を片付けさせられた宗佑にも、綺麗好きの光にもどうにもならなかった問題------すなわちソファーの破れスプリングは、潔くそのまま放置されていた。 「・・・直せば？」 「直そうとしたんだよ」 宗佑は水割りを二つ、コーヒーを一つ作って運びながら言い訳を口にした。 「もうちょっとで飛び出したスプリングで顔に鉤裂きを作るところだった」 「修理に出せば良いじゃない」 「そんなカネあると思う？リョーコさん、俺より付き合い長いんだからそれぐらい察してやってよ」 「お前が言うな！」 「ちょっと待ちなさい」 トレーに載せられた三つのカップとグラスを睨んで、涼子は言った。 「宗佑、あなたコーヒー党だったわね」 「そうだけど？」 「じゃあこの水割りは誰が飲むつもりなのかしら？」 「あ」 「硬いこと言わない」 「キミが言うんじゃないわよ！」 本題に入るにはまだまだかかりそうだ。宗佑はうんざりしながらコーヒーをもう一杯入れるために立ち上がった。 |