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「とうちゃん、今何時？」 光がそう言った時、宗佑は一瞬何を聞かれているのかわからなかった。 「えー・・・もうすぐ十時十分」 「いっけね、もう帰んなきゃ」 光は持っていた小さなリュックをひょいと担いで、傍に居た友人たちにひらりと手を振った。 「ごめん、帰る」 「おー、またな」 あっさりと頷いた彼らは、まだ「昼」とも言える時間で家路に着く光を見送った。光に向ける視線とは違い、宗佑を見る彼らの目には、どこか剣呑な光が底のほうにわだかまっていた。 「・・・良いのか？」 「何がさ」 「まだ何か話をしていたんじゃないのか」 だが、変に気を遣った宗佑が損をした、と思うくらいに光はけろりとして言った。 「だってうちは門限十時半なんだろ？」 「そうだっけ？」 「酒に酔ってたって言ってもさー、自分の言ったことくらい覚えてろよな」 「俺そんなこと言ったか？」 「言わなかったっけ？」 「何だよ、自分だって覚えてねえくせに偉そうによく言うよ」 「それ、親の台詞じゃないよ」 「うるせい」 くすりと笑うと、光は振り返った。後ろには眠らない街、新宿の光がまばゆく輝いている。 「俺たちはまだ早いんじゃないのかな」 「何が」 「あの女の獲物としてはさ」 宗佑は光の顔を見た。何気ない、自然な笑顔だが、そこには確かに「あの女」を知っている者だけが笑える笑いがあった。そして、それは誰もが持てるものでは、ない。 「・・・どうかな」 「だってさ、俺たちには致命的にカネがないよ」 「金はなくても、力がある」 「非力なガキばっかじゃん？」 「お前もか？」 違うだろう？ 「・・・それ、褒めてるつもり？」 「どっちかってーと、違うかな」 むしろ、「畏れている」といった方が正しいかもしれない。 「お前はもうちょっと用心した方が良いかもな」 光は目を大きくして宗佑を見つめた。もっと、違う言葉を想像していたのだろう。 「用心？」 「つまらないヤツに絡まれると損だぞ」 「・・・うん」 時折見せる、年相応の表情。 宗佑は安心すると同時に、「時折」しか覗かないものに痛ましさのようなものも感じていた。 |