|
警視庁からの帰り、光はぼんやりと電車の窓から外を眺めていた。次々と流れては消えるビル。今はまだ真昼間でネオンに光も入っていないが、あと二、三時間もすれば街はあっという間に毒々しい化粧を施すようになるだろう。 「・・・何が楽しいんだろ」 改札を出ると、そこに一人の女が立っていた。 「アカリくん」 「・・・俺、お姐さんの事知らないんだけど」 「アタシは知ってるわ」 にっこり笑う。 噂のような「二流のカオ」とは思えない、色気のある美貌・・・光は冷めた目で彼女を眺めた。 「お姐さん、俺に何か用？」 「用があるのは君じゃないの？」 「ううん。俺は全然用事なんかないよ。いっそ、一生お近づきになりたくないなーって」 「噂どおりの子ねえ」 女はにっこりと美しい笑みを浮かべた。 「クソガキ。ぶち殺してやろうか」 「遠慮するよ。俺、綺麗なお姐さん相手でもぶち殺されるのはイヤだから」 「新宿から手を引きな」 「それはこっちの台詞。街はみんなのものですよーって教わらなかった？」 「私物化してるヤツが言う台詞？」 「俺はあんたみたいに何もかもを手に入れようとは思ってないからね」 一方は詰襟姿の中学生。 一方はどこからどうみてもヤクザの情婦、水商売の女、堅気とは思えない空気を纏った女。 ふと、女が笑った。 「君は私の邪魔をしないわね？」 「俺はあんたに興味ないもん。あんたのやろうとしてることにも興味ない。・・・俺の友達に手を出さなければ、ね」 「君のオトモダチには興味ないわよ。全然面白味がないもの」 「何で？」 すっと、周りから男が近づいてきた。女を守ろうとするように、そばに寄り添う。 「アタシはね、綺麗なものが好き」 「・・・」 「綺麗なものって残酷よね？ちょっと比べて自分が綺麗だと思ったら、容赦なく相手を傷つける。アタシが今までどんな思いをしてきたか、君には分からないわよね、きっと」 「多分ね。でも、俺がどんな思いをしてきたか、あんたにもわかんないと思うよ、絶対」 「そうね。だけど、ブスでバカでデブだったことないでしょ？」 光は肩を竦めた。 「でも、綺麗になることって、簡単なのよね。お金さえあれば、どんな風にもなれる。綺麗であることに意味なんて、価値なんて全くない。そうでしょ？」 「それにはある意味賛成できるね」 「だからアタシは、綺麗なものを壊しちゃうの。綺麗なものを傷つけて、ズタズタにして、二度と立ち直れないくらいにしてやる。死んだほうがマシだって思えるくらい、傷つけてあげるの」 女はにっこり笑って背を向けた。 「気をつけなさい。油断してると、殺すわよ」 捨て台詞を残して、黒塗りの車に乗り込んだ女を見送って、光は肩を竦めた。 「父ちゃんにも手ぇ出すなって言うの忘れたな」 |