|
それが、悪いことだと知りながら手を染めてしまうことがある。 それが、近づいてはいけないものだと知りながら近づいてしまうことがある。 知らずに近づいて、酷い目に遭うこともある。 この場合は、一体、どちらだったのだろうか。 「いよう、光」 東城宗佑が声をかけたとき、光は少し嫌な顔をした。 「何だよ」 「そんな露骨に嫌な顔しなくてもいいだろっ」 「この辺なら、三丁目によく出る店があるってさ」 「誰がパチンコの話をしてる！」 「あれ、違うの？」 ムカつくクソガキ。 宗佑は本当に驚き、意外そうな表情をして目の前に立つ少年を憎憎しげに睨み付けた。 東城光（あかり）、宗佑の息子である。 「お前は親を一体なんだと思ってるんだっ！」 「ごめん、あんたあんまり親らしくないから、つい」 「・・・お前とは一回よく話し合わんといかんな」 「パチンコじゃないんだったら、何さ？」 首をかしげている光の表情は、不思議そうなものでしかない。あんなに嫌な顔をしていたのは、友達（それも新宿の繁華街にたむろする怪しげな）たちと一緒に居るところへ声をかけられたせい、ではなく、単にパチンコ屋の情報をせびられると思ったからか。 （どっちにしても失礼なヤツ） 宗佑は不機嫌そうな表情を崩さず、言った。 「お前、何かやらかしたのか」 「何かやらかしたって、何を」 「だから何かやったのかって」 「だから何かって何さ」 「俺が知るかよ」 「・・・とーちゃん、何怒ってんだよ？」 「涼子から電話があった」 ふと、光の表情が硬くなった。とても中学生の子供とは思えない、大人びた冷たい表情。 「・・・俺に何の関係があるって？」 「あいつが言うと思うか？」 「思わないけど」 「『毒婦を知っているか？』・・・涼子が言ったのはそれだけだ」 嶋村涼子は警視庁捜査一課に勤務するキャリア組の警部補だ。警視庁内部でも、暴力団関係者からも相当に恐れられ、一目置かれている、しかも「極上」という形容のつく美女だ。涼子と宗佑が「刑事と容疑者」以外の関係の知人であるというだけで奇跡というものの存在も信じられる、などと失礼なことを放言したのもやはり、このムカつく息子だった。 「それで、何で俺が関係あるって思うのさ？」 「なきゃいいさ。でも、その毒婦とやらがジュクに居るって俺が知ってるとしたら？」 「・・・ちぇ」 光は笑った。 「とうちゃん、さすがいい勘してるよ」 「じゃあ」 「ただし、半分だけ。俺も知ってるけど、全然関係ないからね」 |