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第一日目の巡察の成果は、コソ泥逮捕二件、初級にもランキングされていないようなチンピラの暴力事件、恐喝事件をそれぞれ三件ずつと、初級の強盗犯逮捕というものだった。 「本部どーぞー。こちら空港チームでーす」 『こちら本部、どうぞ』 「指定区域巡察終了しました、これより帰投します、どーぞ」 『本部了解、ご苦労様です』 「ありがとさんです、おーばー」 但馬はあくび混じりに通信機を戻した。 「何か、疲れたなー。いつもより多く疲れておりますって感じ？」 「んー、堂々と真っ昼間から機動服来てウロウロすることがないからね、僕たちは」 「すげーストレスかかるなー」 但馬は溜息をついてから後ろのシートを振り返った。 「塚沙、一日現場へ出たわけだけど、感想は？」 「・・・そうですね、思ったよりは手応えがなかった感じです。巡察区域のせいでしょう か」 「そうだね・・・でも、研修所を出てすぐの割には動きが良かったよ、塚沙」 目を擦りながら千歳が言った。 確かに、実地研修といって外へ出すだけのことはある。教科書通りの動きではあったが、塚沙は確実に但馬と千歳のカバーをこなしていた。・・・尤も、初級ランキング以下のチンピラ相手に、わざわざカバーしてもらわなければならないこともないのだが、そこはそれ、である。 「でも、但馬さん、千歳さん・・・そんなに内界巡察は疲れますか？」 「え？いや、そうじゃなくてさ。・・・俺も千歳も、アルファ・ゾーンへ跳ぶのが殆どだから、目だっちゃいけないんだよ。だから、無意識でも目だたないように行動するクセがついてるんだけど、機動服ってどこから見てもトレーサー以外の何者でもないじゃん？」 「ああ、なるほど・・・」 「むしろ、重点区域の巡察は、目だつ方がいいんだよ。制服とか機動服を着ることが多いのはそのせいなんだ」 「巡察官の存在をアピールすることによって、犯罪の芽を未然に防ぐという訳ですね？」 「抑圧しても、別の所から噴出するんじゃないかって声もあるけどね・・・だけど、白昼堂々と強盗事件を起こしたり、大量殺人事件を起こさせるわけにはいかないから」 「・・・千歳さんは、『ガーディアン』をどう思われますか？」 但馬の説明通り、いつもと違って必要以上の注目を集める機動服着用の重点巡察は、千歳の神経をかなり疲弊させていた。だから、塚沙の声に含まれていた幽かな軽蔑の感情を読みとれずにぼんやりと答えた。軽蔑は千歳本人にではなく、『ガーディアン』一般に対するものだったから、気付けなかったのかもしれないのだが。 「『ガーディアン』？・・・うん、料理は上手かったよ。ショウガ焼きが美味しかったなあ」 「は？」 「うちの下にさあ、単身赴任してきてる巡察係長が臨時入居してるんだけどさ、洗濯機の水こぼして蒲団を水浸しにされちゃって・・・保険に入ってなかったら、首吊ってなきゃならなかったかもね」 しみじみと回想モードに入っている千歳に、但馬が割って入った。 「何の話してんだよ？」 「何って、『ガーディアン』。孔雀の話だけど」 「なんで『冥王』がショウガ焼き作るんだよ」 「孔雀だってご飯くらい食べるよ。細いくせにものすごくよく食べるよ」 「そりゃメシくらい喰うだろうさ。そうじゃなくて、何でお前が『冥王』の作ったショウガ焼きを喰う話になるんだ」 「ああ、前に上院議員候補を庇って怪我したときに、ガラムが特級にランキングされたから、『ガーディアン』に指令が下りたんだよ」 「じゃ、あれは『冥王』がお前をガードしてたのか？！」 「そうだけど」 「・・・世界ひろしといえども、『冥王』の作ったショウガ焼きを喰ったトレーサーって、 お前くらいのモンだな」 「うーん、そうかも」 「・・・千歳さんは、『ガーディアン』肯定派なんですね」 思わず但馬がはっと振り返ったほど、塚沙の声は固かった。 「治安維持のためなら、少々の特例は認めるべきだと」 「・・・居て当然だとは、思わないよ。犯罪者に犯罪者を狩らせるなんて、異常だよ。だけど、現状はどうだい？『ガーディアン』が居てなお、犯罪発生率は上昇傾向にある」 「でも、彼らに殺された、何の罪もない人々はどうなるんです？罪を犯した人間には再生の機会を与えられても、殺された人々には、何の保障もないんですよ。何の落ち度もなく殺された人々は、どうでも良いんですか」 「どうでも良ければ、『ガーディアン』は任命されやしないよ」 「でも、『ガーディアン』たちは彼らの大好きな人殺しを続けることを許されたまま、のうのうと生き続けている！」 『警察庁』本部に戻る車の中は、沈黙が漂っていた。但馬は面白くもなさそうな表情でぼんやりと外を流れていく景色を眺めている。 「僕には彼らの内面までわかるとは言えないけれど・・・」 ぽつりと、千歳が呟いた。 「けれど？」 「・・・のうのうと生き続ける人間は多分、『ガーディアン』にはいないと思う」 「何故ですか？」 「あらゆる意味で、彼らは破壊されているから」 「彼らも被害者なのだと？」 「単なる被害者である方が、幸せなのかも知れない。・・・」 『ガーディアン』の内面など、千歳にはわからない。そもそも、孔雀以外の『ガーディアン』を殆ど知らないのだ。だがそれでも察しはつく。毎日毎日、犯罪者を追っているのだから。 塚沙はまだ何か言いたそうに千歳をみつめていたが、但馬が二人の会話にピリオドを打っ た。 「『ガーディアン』がいようがいまいが、俺たちのやることはかわりゃしないさ」 「それは、そうですが」 「治安『判事』は『ガーディアン』を好きになれとは一言も言ってない。それで十分だろ。 千歳に絡むな」 「・・・はい」 『警察庁』本部の駐車場へ車を停めると、塚沙はさっさと車から降りて行った。但馬と千歳はそのまま直帰できるが、塚沙は人事部へ戻って報告書を提出しなければならない。 キーを抜いた千歳はそっと、今日で一体何度目になるのやらわからないため息をついた。 「どーした」 「僕って絡まられてたのねって思ったのさ」 「今頃気付くな」 |