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「お前、顔色良くないな」 「ニコニコしていられるとでも思うのか、君は」 翡翠だから、冷静に話していられるのだ。鉄仮面だとか、完璧な無表情だとか言われている翡翠だから、三日連続の徹夜明けでも多少不機嫌な顔をしているだけで済んでいるのだ。 「ここ二、三日、寝てないんだ」 「ちゃんと寝ろよ、お前が倒れたら俺が怒られるんだから！」 「・・・アルファ・ゾーンの母上に？」 「うん」 孔雀のアルファ・ゾーンでの母親は、翡翠が倒れた責任を孔雀に問うているのではない。「ザマアミロ」だとか「自業自得だ」だとかすぐ口にする孔雀に対して、翡翠を息子の友達だと信じて疑わない母親は「友達を思いやる心」を持てと叱っているだけのことに過ぎない。だが、孔雀の怖いものは「幽霊とかーちゃん」なのである。冷静に判断しろというのは無理だ。 「君が僕の悪口言わなかったら、母上だって怒りやしないよ」 「オマエなあ、生きてても死んでもどっちでも良いって思ってるだろ？」 「・・・どうして？」 「見てりゃわかるんだよ」 そう、根本のところで「生」に対する本能を見分けることが出来る孔雀にとっては、翡翠の想いなど、とっくにお見通しなのかもしれない。孔雀はそれに対する是非は口にはしなかった。ただ、 「どっちでもいいなら俺のために長生きしろ。お前になんかあるたびに怒られる俺の身になれ」 「あの・・・僕の長寿と健康は、君のためなわけかい」 「他にも理由が要るか？」 問い返されて、翡翠は返事ができなかった。 自分のため・・・自分がどうでもいいと思っている以上、それは成立しない。ということは、健康に気をつけて職務に専念することは、「孔雀の扶養の義務を『大判事』や若葉に残さない」「孔雀が母親に叱られない」ためということなのか。それだけなのか。 「他の理由も要るのか、贅沢な奴だな。じゃ、俺にコーヒー飲ませるってのは」 「僕の人生の目的がそれなわけ？」 「イヤなのか」 「イヤだよ！」 「自分で目的も見つけられないくせに、贅沢言うな！」 贅沢なのか。 贅沢だったのか。 孔雀の扶養は本当に、自分の義務なのか。治安『判事』としての義務ではなく、翡翠個人にかかる義務なのか。義務を通り越し、人生の目的として、そのために日々を過ごすのか。 「・・・やっぱりイヤだ」 「何をぶつぶつ言ってやがる。お前どーせまだメシ食ってねーんだろ、俺が食わせてやるよ」 「それは、やっぱり、君が僕に奢ってくれる、んだよね・・・？」 「そう、俺がお前の金でお前に奢ってやるんだ」 眩暈がする。 本当に、「奢る」という言葉の使い方がわからなくなってしまった。こんな悩みも、生きていくためには必要なことだというのか。あまりにも、人生は過酷だ。 「グズグズするな、行くぞ！」 「はい・・・」 |