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「いよう、光」 宗佑が声をかけたとき、光は少し嫌な顔をした。 「何だよ」 「お前はホントに露骨に嫌な顔するヤツだな」 「えーそんなことないよ」 「カオが笑ってるぞ」 「最近は二丁目によく出る店があるってさ」 「誰がパチンコの話をしてる！」 「あれ、違うの？」 度々ムカつくクソガキ。 宗佑は本当に驚き、意外そうな表情をして目の前に立つ少年を憎憎しげに睨み付けた。 「いちいち俺とパチンコを結びつけるのはやめろ！」 「じゃ、もう良いんだ」 「・・・後で聞く」 「んじゃ怒るなよ、いちいち」 「うるさいっ」 「はいはい。で、今日は何さ」 「お前、騙したな」 首を傾げる光に、宗佑はにやりと笑って指を突きつけた。 「お前、あの女を知ってたろ」 「知ってるって最初から言ってたじゃん」 「あの女のマエを」 一瞬、光の表情が揺れた。だが、次に浮かべた微笑は、傍に居た「友人」たちがひやりと肝を冷やした程、含みのあるものだった。 「・・・どこからそんな噂、仕入れてくんのかなあ、とーちゃんは」 「俺をバカにした罰だよ」 「ちぇ」 肩を竦め、光はけろっとした顔で頷いて見せた。 「知ってたよ」 「お前の気に入らない奴らはきっと引っかかるだろうと期待してただろ」 「俺さ、バカなヤツって、キライじゃないよ。分かってても、それでも突き進んじゃうバカって、結構好きかもしれない」 光は視線を上げた。 もう夜だというのに、星はひとつも見えない、人口の光に照らし出されて霞んでいる白けた空。 「・・・だけど、愚かなヤツはキライだよ」 「チャカの暴発で死んでしまっても良いくらい？」 「選んだのはアイツラだよ」 「お前なら止められたかもしれなくても？」 「とうちゃん」 光はゆっくり首を振った。 「最後は自分で選ぶんだよ、いつだって。俺はそうしてきた。これからもね」 「・・・なるほど」 宗佑は頷くと、踵を返した。 「どこ行くのさ」 「門限は十時半なんだろ？」 思わず振り返って「友人」たちの顔を眺めてしまったほど、宗佑の口調は軽かった。いくら気に入らないといっても、いくら彼らが愚かだったといっても、それでも、同年輩の少年たちを見殺しにしたといっても良いような光の態度を追求していたとは思えないような口調。 「早く帰らないと締め出されるぞー」 「・・・誰にだよ、不良オヤジのくせに」 宗佑は自分で思っているよりもずっと、お節介だ。もし宗佑が光と同じ立場なら、宗佑なら見捨てるようなことはしなかったかもしれない。お節介だとわかっていても、彼らに思いとどまらせるように行動したかもしれない。光の冷たい態度に割り切れないものを感じているのかもしれない。 だが、最後に選ぶのは、自分なのだ。 誰も、代わりに決断をしてはくれない。自分で選び、自分で決定し、その結果がどうあろうと、受け入れていくしかないのだ。 すたすたと歩み去る宗佑を追いかけるべく、光はカバンを取り上げた。 「じゃ、俺帰るよ」 「あ、ああ・・・」 「気を付けろよ」 光はくすりと笑った。 「この街に喰われたくなきゃあな」 誰にでもやさしい顔を見せる街。 誰にでも牙を剥く闇の顔を持つ街。 どちらの顔も、この街の「本当の」顔だ。どちらを選んだとしても、どちらも「本物」。 光はくすりと笑った。 「なんだよ、思い出し笑いなんかしやがって」 「とうちゃんは、俺と反対だなって思ってさ」 「反対？」 「誰かを切り捨てることってないだろ？」 「そうでもないさ」 「そう？じゃあさ、何で？」 どうして、俺を、引き取った？ 「選んでるからさ」 「ふーん？」 「誰だって、何でもかんでもは引き受けられないさ」 宗佑は手を伸ばして、光の頭を引き寄せた。 「何だよ」 「べつにー」 「・・・言っとくけど、カネは貸さないからな」 「あっ、お前、そんなこと言う？！」 「子供にたかるなってば！」 |