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白い月と紅い月、どっちが好き？ 「俺は白い月の方が好きだな」 「赤でも白でも好きな方を食べればいいだろう」 「いや、饅頭じゃなくて・・・」 顔も上げずに紅白饅頭を差し出した翡翠に、孔雀は諦めてとりあえず白い 饅頭を取り上げた。 「喰うよ？」 「あ、毒入ってるかもしれないけど」 後一瞬遅ければ、口の中に入っていただろう。孔雀は大口を開けたまま、 饅頭を箱に戻した。 「・・・お前、敵多いんだ」 「おかげさまで」 嬉しくもなさそうに答えて、翡翠は紅い饅頭に手を伸ばした。 「おいおい、毒入ってんじゃねーのかよ」 「入ってるかもしれないって言っただけだよ」 「誰が持ってきたんだよ、これ」 「僕」 「・・・お前は自分で自分に毒を盛るとでもいうのかッ？！」 「そんなことするわけないだろ？」 「・・・」 くすりと笑って饅頭を二つに割ると、ふと翡翠は遠い目をした。 「・・・月といえばね」 「中秋の名月、いつかわかった？」 「そうじゃなくて。・・・君はどうして白い月が好きなの？」 「別に理由なんかないけど。強いて言えば、美味そうだから」 「知ってる？僕は昔、君に会ったことがあるみたいなんだよ」 「・・・え？」 微笑んで、孔雀を見上げる。 「君、百貨店を焼いたことがあるだろう？」 「いっぱい焼いたから、覚えてない」 「僕はその時屋上の遊園地にいた。火焔を身に纏った君に、熱くないのかと 訊いたら、君はそんなことを訊かれたのは初めてだって言って、笑った」 「・・・」 「後はどうだったのか、何も覚えてないんだけれど・・・僕は君に助けられ たようだね。あのお兄さんとどんな話をしたの？って、トレーサーが何度も 何度も訊きに来た。君が誰かを助けるなんて、後にも先にもその時だけだっ たようだしね？」 「・・・俺はお前とどんな話をした？」 「紅い月が好きだって」 振り返り、窓から外を見る。空には、紅い月が低く垂れ込めていた。 「あの時も、こんな紅い月が出ていたよ。紅い月を見たら、今日のことを思 い出すかもしれない、って」 翡翠は薄く笑った。 「紅い月を嫌いになったのは、あの日のことを後悔しているから？」 ・・・翡翠は窓の外をぼんやりと眺めていた。 紅い月は高く上がって、黄色い色に変わっていた。 「毒なんか入ってないのに」 翡翠が食べた紅い饅頭の半分だけ、黙って持っていった孔雀。 「白くても紅くても、月は月だよ、孔雀」 |