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「なあ、翡翠」 治安『法廷』に入り浸っている（としか思えない）孔雀が、茶色い砂糖水をすすりながらふと思い出した風を装って言った。 「ツァラトゥストラっているじゃん」 「・・・まあね。居るって言えば居る、けど・・・」 「『ツァラトゥストラはこう言った』、って本あるだろ？」 「ああ、今はそういう表記になってるんだねえ。僕が読んだときは、『かく語りき』だったけどね」 「あのさ、どう言ったんだ？」 「・・・は？」 「だからさ、そいつは何を言ってるんだよ？『こう言った』でも『かく語りき』でもなんでもいいけどさ、結局何を言いたいんだよ、そいつは？」 「えっと、・・・」 翡翠は視線を宙に泳がせた。 いくら翡翠でも、かなり長い間手にとっていない書物の内容を、すらすらと、しかも孔雀にも理解できるように、容易に、その上簡潔に説明するというのはかなりの困難を伴う。 「そもそも、ツァラトゥストラは、・・・って、そんなの一言で説明できるか！」 「誰も一言で言えなんていってねーだろ、二言でも三言でも許す」 「あのねえ、文庫本で上下巻に別れてるものを、そんな簡単にまとめられるわけないだろ！」 「なんでだよ、お前そーいうの得意じゃん」 「・・・否定はしないけど、でも絶対無理だよ」 「なんで」 「だってあれは哲学だもの。君にわかる？」 「・・・」 一往復半、首を振った孔雀は最後の帰路で我に返って怒鳴った。 「ちょっとまて、それはどーいう意味だ？！」 「君が思ってるとおりの意味だよ！」 「俺を馬鹿だと思ってるだろ、お前は！」 「いっそ馬鹿だったらもっと始末がいいと思うけどね、僕は！」 「な、なにおう？！」 ・・・なんでもいいです、先輩。 孔雀の相手なんてしないで、早く書類をください。 若葉の声にならない願いが、空しく治安『法廷』の空に溶けて消えた。 |