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「おーい、千歳！」 長い勤務を終え、廊下を歩いていた千歳三等巡察官は後頭部に衝撃を受けた。振り返ると、同僚の伊万里がにこにこ笑って立っていた。彼に悪意はないことはわかっている。だが、いつもこの調子で行動しているのなら、萩と共に「割れ物コンビ」などという不名誉な呼び名で呼ばれることも納得がいくというものだ。 「お前、選抜試験受けたんだろ？どうだった？」 「何かもう、出がらしになった気分だよ。目一杯頭を絞らされてさあ、最後の方は時間がギリギリになっちゃって、時計との戦いになってたね」 「千歳もとうとう出世レースへの目覚めを迎えたのか〜？」 そんなわけはないだろう、ということがわかっているくせに言うのだからタチが悪い。千歳は苦笑して首を振った。 「違うよ。ちょっと、知りたいことがあって…」 「知りたいって、選抜訓練でか？」 「うん…でも、まあ、合格できるかどうかが先だけどね」 「千歳なら試験受けなくても、業績優位者枠で行けるだろ」 「そっちもラクじゃないけど…でも試験受けるよりはまだ望みがあるかも」 「絶対行けるよ。頑張れよ、千歳」 「うん、ありがと」 過去の検挙率などを査定して選抜される業績優位者枠の中に入るということは、そのまま巡察官としての自分を高く評価してもらえている、ということなのだが、…真っ当に試験を受けてもダメだろうなというのは、それはそれで物悲しい気分になるのだけれども。 「…深く考えないでおこう…」 だって試験なんか五年以上受けてないんだし、などと自分に言い訳をしながら、千歳は降番申告をするために、認識番号をシステムへ入力するのだった。 |