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学校を卒業して、あてもなく都会へ一人で出ていって、そこでとりあえず 親の金で家を借りて、親の金で生活してみた。 何にもかわりゃしない。親と一緒に住んでいたって、何にも変わらない。 じゃあ、どうして俺は家を出てきたんだろう？やりたいことがあって、でも はっきりとそれが掴めないから、一人で生きていって、そこでゆっくり考え てみたい。そんないい加減な説明で、よく納得してくれたよな、オヤジとお 袋。俺だってそんなこと、思っちゃいなかったのに。ただ、「何かがそこに は存在するなんて甘いことは考えてないから」と言ったのだけは我ながら賢 明だったと思う。それで二人とも俺を信用したんだろうか。実際、出任せじゃ なくて、本当にそう思っていたから、それだけは事実だったから、だから信 じてくれたんだとは思っているけど。 何になりたいって、そんなものあるはずない。強いてあげれば、何にもな りたくない。 「友記〜何をぼんやりしてんの？」 呼びかけられてはっとする。一瞬自分が呼ばれているとは思わなかったけ れど、なんとか反応した。 「え、何となくね」 「もうこっちの生活、慣れた？」 「まあ・・・ね」 ベータ・ゾーンから比べりゃ、イナカも都会も同じだよ。俺にとってはね。 どこもみんな綺麗で、安全で、みんな安心しきってる。繁華街がアブナイな んて、そんなのウソだね。俺にとっては、ね。ここじゃ有名な歓楽街だって、 ガッコみたいに優しくて、安全で、綺麗なところだし。愛想ふりまくネーチ ャンも、客寄せしてるニーチャンも、みんな良いヤツばっかだよ。なあ。 「都会へ出て、何をしたいの？」 高校の教師はそう言った。俺は素直に、「何かを捜したい。考えたい」と 言った。だけど、それはウソ。考える必要はない。したいことは一つだけ。 だけど、ここではそれは許されない。 許されない？本当に？ 「友記さあ、なんでこっちへ出てきたの？」 みんながそうきく。バイト仲間も、店長も、みんな。 それを聞いてどうしようっていうんだよ？そう思うけれど、俺はとりあえ ず、笑ってごまかすことにしている。俺にだって判らないし、判ったって言 いたくないと思う。ホントはわかってるけど。だけど、判りたくないから、 判らないふりを続けてる。いつか、イヤでも自分で認めなきゃならない日が 来ると思うから、その日のために、イヤなことは先延ばしにしておく。それ がせめてもの日々のささやかな暮らしの糧。 「考えたいことってなに？それは、ここでは考えられないことなの？」 鋭い、センセ。とりあえず、俺は頷くしかなかった。どうしても、家を出 たかった。家を出たら、そうしたら、俺は解放される。オヤジとお袋を殺し たいけど殺したくない、殺せないというジレンマから。血のつながりのない 人間だからとかそういうことは関係ないと思う。俺のやりたいことを悉く阻 んできたやつらを、綺麗さっぱり片付けたいと思うし、今までもそうしてき たのだけれども、この二人だけはどうも勝手が違う。どうしてなのか、考え ようと思ったこともあったけれど、やめた。考えたらきっと俺は俺でなくな ると思うし、答えが出たら俺は多分気が狂う。 ここには、そんな危険がたくさんある。オヤジにお袋、卒業式の日に振ら れたオンナ、トモダチ。 本当は、俺にはそんなものは要らないと思ったのだけれど。要らないとい うより、存在し得ないといったほうが正しいか。そうやって、俺にどんどん くっついていくもの。足枷のように、俺の動きを妨げるもの。とりあえず、 それから離れてみたかった。 離れてわかったこと。 距離は関係ないということだけだった。ばかばかしい。 「許されないこと」。 まわりがそれを許さないのではなく、俺が俺を許さないんじゃないかと、 思った。殺すこと、壊すこと、そして死ぬこと。 俺はどんどん堕ちていく。いや、傍目から見りゃあ、それは堕ちている のではなくて、学習しているのかもしれないけど。幼稚園でバカみたいに 笑ってるガキでも知ってる当たり前のことを、二十一年と十八年の、通算 三十九年でやっと学び始めていると思うのかもしれないけれど。 だけど、俺は堕ちている。俺にとっては。 どこまで堕ちるのだろう。果ては聖人君子の教祖様？ どうなるんだろう？このまま、平穏な人生が、送れる・・・いや、送ら される・・・？どっちだろう？ いいや、難しいことは考えない。どっちにしても、俺の人生、終わって る。ベータ・ゾーンから、アルファ・ゾーンへきたときから。だから、堕 ちるところまで堕ちてみても、それはそれでろくでなしの人生としては、 面白い・・・のかも、しれない。 |