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「・・・君、誕生日っていつだっけ？」 翡翠がふと顔を上げた。 「オマエは俺の誕生日を覚えてないとゆーのか。薄情なヤツめ」 「ごめんごめん、ちゃんと覚えておくから教えてくれよ」 「えーっとなあ、・・・」 「・・・」 「・・・」 「・・・忘れたの？」 「・・・そうみたい」 翡翠は呆れ、孔雀は首を傾げた。妙に焦った表情で、孔雀は右に左に首を傾げ、 そして諦めた。 「わかんねーや。今度お袋に聞いとく」 「自分の誕生日くらい覚えておけば？大体、アルファ・ゾーンで宮内友記として 生まれたときはいい大人だったんだから」 「逆に、すでに精神は大人だったからこそ、生まれたんだ、って気分が足りなく て覚えられないんだ、きっと」 「そんなことあるもんか」 「あるよ」 「ないよ。だって、君、ベータ・ゾーンでの誕生日だって知らないだろ」 「・・・俺は覚えてないけどさ。でも、治安『法廷』ならそれくらいのデータ、 揃えてるんだろ？」 「ないよ」 「・・・まじ？」 翡翠はこっくりと頷いた。 「だって、誰も知らないんだよ。調べようにも調べられないんだ」 「けどさ、誰か一人くらい・・・」 「君の周りにいた『シビリアン』のメンバーが、わざわざ誕生日を記録しておい てくれることを期待する方が間違ってると思うけど、どちらかというと」 「そ、そういわれてみると・・・」 「だからさ、君は精神年齢は四十歳ってことになってるけど、書類上は生年月日 不詳なんだよ」 「無職、住所不定の生年月日不詳？・・・それじゃまるで俺ってこの世に存在し ないみたいじゃん」 「それは悲観しすぎだけど。でも、ちょっとそれに近いものがあるかもね」 「何か急に淋しくなってきた」 アルファ、ベータ両ゾーンにおいても生年月日不詳というのは、かなり孔雀の 自我にショックを与えたらしい。普段はそんなことを気にする性格ではないのだ が、きっと腹でも減らしているのか、眠いのかのどちらかなのだろう。翡翠はあ まり気にせずにお茶を飲んだ。 「・・・なあ、翡翠？」 「なんだい」 「オマエも家族、いないよな」 「うん、そうだけど」 「オマエは誕生日わかってんの？」 「そりゃわかるよ。両親が厚生署へ届けてるもの」 「・・・ちぇっ」 ほらね。孔雀がしおらしくショックを受けたりするわけがないんだ。 翡翠は肩を竦めた。 「両親がいないことは生年月日不詳の必要条件ではないよ」 「ふ、ふん、残念だな、年をごまかしてサバ読むこともできねーもんな」 「そんなことする必要がどこにあるんだい」 「な、ないけど」 「今度君の誕生日にはケーキ買って上げるから、あんまり拗ねるのはよしなさい」 「・・・じゃ、俺はこれから毎年お前の誕生日には蝋燭を一本ずつ、吹き消して いってやるよ」 「嫌なヤツ・・・」 「全部吹き消した時がお前の寿命の終わり、ってわけだな」 へらへらっと笑った孔雀に、翡翠は言った。 「何本蝋燭を用意しておいてくれるつもり？」 「え」 「全部吹き消す前に僕が死んだり、逆に全部吹き消したのにまだ僕が生きていた りしたら、まずいんじゃないの？」 「やっぱ、まずいかなあ？」 「そりゃあ、良くないと思うな」 真剣な表情で、内心は笑いながらも翡翠が答えると、孔雀は首を傾げた。 「お前、あと何年生きてる？」 「・・・さあ、あと十年くらいかな。三十五まで生きたら、もういいかな」 「・・・なんで？」 「なんとなく。それ以上は辛い気がする」 黙って孔雀は翡翠の顔をまじまじと見つめていたが、やがて何かに納得したか のように、頷いて見せた。 「わかった。じゃあ、五十本用意しておく」 「・・・君は僕の話を聞いていたのか？」 「聞いてたよ」 「じゃ、どうして勝手に五倍するんだ」 「俺がもっと蝋燭を吹き消したいから」 一瞬の沈黙のあと、孔雀が笑った。 「蝋燭を消した時ってさ、なんか焦げ臭い匂いがするじゃん？俺、あの匂い好き なんだよな〜」 そう、やっぱり孔雀はそういうヤツ。 でも。 「・・・ありがとう」 「マッチを擦る時の匂いはもっと好き」 「放火するんじゃなけりゃ、何本でも擦ってなさい」 「いや、そんなにヒマじゃないんだけど」 「うそばっかり」 「な、なんだとッ？！」 |