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歌を忘れた金糸雀は。 「ねえ、孔雀」 翡翠が呟くように呼んだ、その声を聞き逃さず、孔雀が振り返った。 「なんだ」 「歌を忘れた金糸雀は、・・・どうなるんだっけ・・・」 「・・・」 「捨てられるんだったかな？それとも、殺されるんだったかな・・・」 「金糸雀だったら、別に気にしなくても良いだろ」 孔雀はあっさりと言った。 「歌手が歌を忘れたら、野次られるかもしんねーな。でも、金糸雀だったら別に歌おうが歌うまいが、金糸雀の勝手だ。忘れようが忘れまいが、大きなお世話だ」 濃蒼の瞳が、光る。 「・・・何かあったのか？」 「何もないよ」 「嘘つけ。・・・」 熱で衰弱した翡翠の意識は殆ど朦朧としている。 ずっと熱があったのを黙って仕事をしていた。たまたま翡翠を困らせてやろうと治安『法廷』へ暇つぶしに来た孔雀が「お前熱があるんじゃねーか？」と言ってやっと判明したのだった。若葉は仰天して星夜に「すぐに風邪が治る薬を作れ」と命じ、「バカじゃないの、あんた？」と返されてやっと翡翠に静養が必要であることを思い出す始末。結局、素直に「嫌がらせしに来たんだけど」と口を滑らせた孔雀が逆に看病を命じられたというわけだ。 「なんでもいいけどよ。お前、そんなに体弱いんだったらさ、専属の医者か看護婦でも雇えば？いっとくけど、俺はイヤだからな」 「専属の医師が必要なほど弱くないよ・・・」 「じゃあ病気ばっかすんのやめろ。迷惑だ」 「そうだよね・・・」 当人は殆ど意識がないのだろう。とりあえず、孔雀の言葉に適当に返事しているに過ぎないはずだ。だが、・・・孔雀はぎゅっと眉を寄せた。 「お前なあ」 「・・・なに？」 「・・・何でもない」 歌を忘れた金糸雀は。 「捨てる神あれば拾う神あり、って知ってるか？」 「廃品回収みたいだね」 「ばかやろ。その紙じゃねー」 「でも、拾う神様だって、全部拾うわけじゃないよ」 「・・・俺が拾う」 やっと静かな寝息を立て始めた翡翠を見て、孔雀は呟いた。 「手の掛かるヤツ」 2000.10.30 1:26 AM |