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孔雀が火焔呪を召喚する時、大概は濃蒼の瞳が深紅に染まっている。一度だけ、額の凶眼が開きっぱなしになったときも、双眸は深紅だったから、本性の瞳の色は深紅だということなのだろう。 「どうする？」 訊かれて、はっと翡翠は我に返った。自然には決してない瞳の色に、そして、尋常ではない、狂気の色に…畏界の蒼い焔の色に、目を奪われていたのだ。 「どうもこうもない。彼らはまだ『初級』か『中級』が関の山だ、殺すまでも無いだろう」 心の動揺を押し隠すことなど、翡翠には何の造作も無いことだ。そして、汚く冷たい言葉で相手を圧倒することも、手馴れたことだ。 「政府の高官」「殺せば一生を遊んで暮らせる闇の賞金がついているらしい」そんな言葉に踊らされてのこのこ顔を見せるのは、大概が小者だ。本当に気が狂っている犯罪者たちには治安『判事』の存在なんぞどうでもいいことだし、処刑しようとして命を狙ってくる『ガーディアン』たちも、目の前に出てくる「殺すべき相手」の一人にしか過ぎない。 「ふーん。じゃあ、放置プレイ？」 「まさか。『警察庁』へ連行するよ」 「誰が」 「君が」 「何でオレが！」 「君のほうが腕力沙汰では勝ってるから」 「ちぇ」 それで納得してくれる孔雀も、どうも理解しがたいものがあるが。 視線を孔雀からそらしたとき、くすりと笑われた気がするのは、翡翠の気のせいか、それとも畏界の焔に魂を奪われそうになったことを見透かされてのことか。 翡翠は気付かなかったことにして、何もなかったことにして、踵を返した。
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