|
強い、煙草の匂い。 孔雀は煙管から立ち上る、細い煙を見上げた。 女が、笑う。 『まだ未練があるのか？』 嘲笑う、というには柔らかすぎる。 愛しい、というにはあまりに強すぎる。 孔雀は目を閉じて、女の面影を追った。 「未練…ほどは残ってねえよ」 記念品。 思い出。 そのどれもが当てはまるようで、当てはまらない。 記念など、欲しくはない。思い出らしい思い出も無い。 「形見…っちゃあ、やっぱり未練が残ってるってことかねえ」 孔雀が呟いて目を開けると、そこに女は居なかった。 面影さえも。 「ま、そんなもんだろ」 一筋、細い煙がたなびいて、火が消えた。 ぽん、と灰を捨てる音が、大きく響いた。 |