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ざわざわと騒がしくなりつつある食堂内。十二時にはまだ間があるが、早めに食事をとって午後の仕事に備える者、ただ単に十二時になったら混んで席が取り難くなるからというだけの者、様々だが、だんだんに集まってきた人々の声で食堂内は賑やかしい。それでも、楽しい食事の時間とあって、多少五月蠅くはあるが、不愉快には感じられないのが面白い。 そんな中で、悲鳴のような声が聞こえた。 「ちょ、ちょっと待ってってば」 あの声は、可哀想な治安『判事』だ。悪魔の『冥王』を飼い犬にしたばかりに、餌をたかられている悲劇の人。 だんだん、人々の間にはそんなイメージが定着しつつある今日この頃の翡翠は、やはり『冥王』孔雀に腕を掴まれて食堂へ現れた。 「とにかく丁度でないとダメなんだよ！」 孔雀が怒鳴る。とてもそんな悪魔のようには見えない、色白で華奢な美少年だが、癇性のように眉間に皺を寄せて怒鳴っている所をみると、・・・それでもやはり、『冥王』という二つ名まで付けられた凶悪殺人犯には見えないのだが。 「十二時だ。遅くても早くてもダメだ」 「無理だよ、丁度なんて！大体、昼でも夜でも自由に治安『法廷』名義で食べて良いって言ってあるだろ？！」 「だっておばちゃんが『ツケだと忘れるからさぁ〜、できれば『判事』さんと一緒に来て食券買ってくれた方が良いわぁ』って言うんだから仕方ねえだろ！」 「僕の都合は無視しても、『法廷』食堂の都合を優先させるのか！」 「当たり前だ！」 はじき返すように怒鳴り返されて、さしもの翡翠もぐっと詰まる。それでもさすがは「全てのものを沈黙させる治安『判事』」の名は伊達ではない。すぐに反撃にでた。 「あのね、クスリなんて適当で良いんだよ！食後のクスリだって、食後三十分とはいうものの、一時間くらい経っていたって平気だって薬剤師が」 「お前にはやる気がないからだ！やる気があれば出来る！」 「・・・大体、十二時丁度でないとだめなクスリって何なんだよ！僕が文句を言って替えさせてやる、言ってみろ！」 「下剤」 「・・・は？」 「俺、今日レントゲン撮ったんだよ。下剤飲むの忘れてたから、早く飲まなくちゃなんねーんだ」 「じゃあ今すぐ飲めば良いだろ！」 「胃が悪くなったらどうするんだ！」 今更誰の胃がどう悪くなるって？ 耳を疑った、その一瞬が勝負の分かれ目となった。 「いいから来い！」 「うわっ」 「財布！俺、うどんでいいから！」 諦めたのか、『冥王』の魔力に幻惑されているのか、心なしか魂が抜けたような表情で財布をとりだし、「うどん」の食券を二枚買う治安『判事』の姿を見て、人々はせめて、とそっと目を背け、初めから何も聞かず、何も見なかったことにしよう、と思うのだった。 |