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ラパス連邦首都、デノン・タウンにはあまり雪は降らないが、冷え込みは厳しい。 今日も巡回を終え、刑事課へ帰ってきたマリアとルカはそれぞれ暖かい飲み物を手に、自分の椅子に納まった。 「・・・イテテテテ・・・」 小さなつぶやきが、ファイルの山の向こうから聞こえてくる。ルカはファイルの山をどけると、向こう側に座っているマリアの顔を覗くように見た。 「どうしたんですか、マリアさん？」 「ん、なんでもない」 だが、マリアの顔はほんの少し、痛みに苦しめられた形跡が残っていた。 「でも、・・・どこか、お悪いんですか？」 「今は悪くねーよ」 「神経痛ですか？」 ファイルの山は全て退避させたはずなのに、がつん、とルカの脳天目がけてことさら硬い表紙のファイルが落ちてきた。 「イテテテ・・・」 「あたしはまだ神経痛病みになるほどのトシじゃない」 「だってマリアさんが痛いって言うから心配したのにー！」 「前に骨折したところが痛んだだけだ」 「ああ、古傷ですか」 「そうそう、お前がその後暴走して怪我が悪化したところな」 「・・・」 ルカは黙り込んで、恨めしそうにマリアを見つめた。 確かに、ルカは一人で勝手に捜査活動をした。 そのルカが絶体絶命の状態に陥った時、助けてくれたのは、マリアだった。 「・・・でも、あの時、コンタクトレンズが吹っ飛ぶほどビンタしたじゃないですか・・・」 「それでお前の首の骨が折れたか？」 「僕の首の骨を折るほどビンタする気だったんですか、マリアさんは？」 「お望みなら、今からしてやってもかまわねえぞ、あたしは」 「こらこら、刑事課で殺しの相談をやるな」 書類に埋もれてアタマのごく一部しか見えていない課長が、二人の過激な会話に横やりを入れると、二人は図らずも声を揃えて言った。 「殺しの相談なんてとんでもない」 「僕が殺されそうになっているんです」 「あたしは大事な相棒の願いを叶えてやろうとしているだけです」 「僕は望んでませんッ」 「顕在化していない願望を汲み取ってやろうというのが相棒に対する愛情だと思わねーのか」 「無意識下でも意識的にも、願ってませんから！」 「首を吊るなら相談しろよ、あたしが手伝ってやるからな」 何しろお前じゃ天井の梁に手が届かないだろうから、と意地悪く笑うマリアに、ルカも澄まして答えた。 「平気です、便利な道具も近頃はありますし、神経痛のご老体をむち打つような真似はいたしませんから」 「誰がご老体だ、テメエの方が年寄りだろうが！」 どがん、と音がして派手に椅子がひっくり返る音がした。 課長は、五月蠅い、とも止めろ、とも言わない。 言ったところで無意味だし、どうせ二人とも聞いていやしないし、怒鳴るだけエネルギーの無駄遣いだ。止めなくても、お互いに殺し合う所まではいかないだろう、ルカが酷い目に遭う程度で、・・・・・ 「痛い痛い痛い、課長ッ、助けて下さい〜！」 「一対一の勝負に助太刀を頼むとは卑怯者め！」 聞こえない。 いや、聞こえているけれど、相手にしない。 課長は次の書類を手に取った。 |