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「翡翠、翡翠」 孔雀が息せき切って治安『法廷』へ飛び込んできた。 「治安『法廷』にチェーンソーか斧か高枝切り鋏、ねえか？！」 「全部ないよ！」 清掃局ならともかく、何故治安『法廷』にそんなものを常備せねばならないのだ。高枝切り鋏に至っては、どこのセクションにもないだろう。もし必要だとしたら、庁舎周りの樹木の剪定を全て業者に頼むからだ。 「斧だのチェーンソーだの、物騒だな！何に使うつもりなんだ」 「だって届かないから」 「何に？」 「どうやっても届かないんだ！」 「だから何に？！」 「枝にボールが引っかかって取れないんだ！この周りは全部コンクリで固めてあるから石もないし、下手に投げてガラス割ったらまたオマエ怒るだろ」 「当たり前だ！」 もしそれが治安『法廷』のガラスだったら、翡翠が泣いて自腹を切るか、予算会議で春菜『法廷』事務官に頑張ってもらえば何とかなるが、それがまた他『法廷』だったり、『警察庁』だったりしたら・・・まだガラスが割れたわけでもないのに、早くも翡翠は胃の痛む思いで孔雀を見上げた。 「・・・斧で何する気？」 「決まってる、木を切り倒すんだ」 「梯子をかけて取りに上がる、って選択肢は？」 孔雀はまじめな顔でまじまじと翡翠の顔を見つめた。梯子でも届かないような、もの凄く高いところか、梯子もかけられないような細い木の先端の枝に引っかかっているのかと思った瞬間、孔雀がぽんと手を叩いた。 「お前、アタマいいな！」 「・・・ありがとう」 「梯子って、どこに借りに行ったらいいのかな？」 「総務部に訊いてみるよ」 翡翠は電話に手をかけて、少し考えた後、受話器を上げずにそのままもう一度孔雀を見上げた。 「あのさ」 「なに」 「それ、もの凄く高いところに引っかかったの？棒とか、何かで突いて落とそうとしても届かないような」 「んーと・・・」 話すより見せた方が早い、と孔雀が翡翠の手を掴んで連れていったのは、治安『法廷』のすぐ前の廊下で、そこから下を指してみせた。 「ほら、あの右から三番目の木」 「・・・清掃人の使う箒を借りていったら、届くんじゃないかな？」 「ああ、そうだな、箒の方が軽いしおばちゃんも顔見知りだから、その方がイイや」 孔雀はもう翡翠のことなど頭にないように廊下を駆け出して、階段を駆け下りていった。清掃人の休憩所にむかったのだろう。 「なんであんな低い木にチェーンソーだの斧だの考えるかな・・・」 確かに、孔雀がいくら背伸びをしても、飛び上がってみたとしても、頂上には届かないかもしれない。だが、箒一本あれば十分に何とか出来る程度の、低い木だった。 いくら『ガーディアン』で血の気が多いとは言え・・・翡翠は溜息を吐いて、執務室へ戻るのだった。 |