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「自殺したぁ？」 課長は思わず深く息を吸い込み、次に怒鳴りつける準備をした。 「お前らなぁ！！言い訳はもうちょっと上手にやれ！！」 「しかし課長、私は直前に警告を発しました」 真面目腐った顔で言い返したのはマリア。 「警告を無視し、私たちの車に体当たりしてきたのは相手の方です。下手に避けるとなお一層の被害が出ると判断し、そのまま直進しました」 「私も、連邦捜査官の身分証とラパス連邦警察官としての誇りにかけて、マリア刑事の発言通りであったことを証言いたします」 マリアの隣りに立つのは小柄で華奢な、まだ高校も卒業していないのではないかと思うほどの童顔の刑事、ルカ。無頼派・一匹狼であったマリアのパートナーとしてコンビを組む連邦捜査官である。 「貴様の証言なんぞ当てになるか！」 「課長、お言葉ですが、部下の誇りをかけた宣誓をお疑いになると？」 「・・・むっ」 「私は宣誓して証言した時にウソを吐いたことなど一度もありません」 「それ以外はウソや誤魔化しばかりだろうが！」 「ええ、ですから今回ばかりは本当なのです」 しれっとした顔で頷くルカの顔面に灰皿をぶつけたい衝動を堪え、課長は視線をマリアへ戻した。 「で？」 「幸い、車には損傷もなく、周囲の通行人や後続車、対向車にも影響、損害はありません」 「調査委員会は？」 「そんなモン、私が呼ばせるようなヘマをするとでも？」 確かに、愚問だった。 課長は頷き、マリアの手元に視線をやった。 「標識や研究機関の刻印は？」 「ありません。鑑識でも確認しましたが、遺伝子操作等を施した形跡はありません」 「もうそこまでやったのか・・・」 「そりゃあ、喰うためですから」 力強く頷いたマリアの手にぶら下がっているのは、二羽の野鴨らしき鳥。 鴨でも鳩でも雀でも、人語で「警告」されても通じるわけはない。マリアがどれだけ凶暴な刑事であろうが、ルカがどれだけ悪辣で性悪な刑事であっても、鳥がそんなことを知っているわけはないし、この世を儚んで自殺しようはずもなかろう。マリアが「どけ、このヤロー！」と怒鳴ろうが、「ぶっ殺すぞ、どけ！」と叫んでも、鳥には通じない。まして、二人は車で移動中だったのだ。「このままぶつけて殺っちまえ、天然動物の肉が喰える！」と思ったかどうか、知るのは二人それぞれ自分自身と、天だけだ。 「今夜十二時、ヤミで鍋をやります。課長も参加されますか」 黙って頷く課長。 天然動物を誤って殺したとき、またはその死体を発見したときは必ず動物保護庁へ届け出なければならない、という条例を破ることを黙認する、いや、その共犯者になることになるが、この際、天然動物肉を口にする機会を棒に振るバカはいないだろう。 もちろん、無検査・無認可の天然動物肉を口にすることによって体調不良などの何らかの不利益を被ることは覚悟の上で、だが。 背を向けて去っていこうとする部下二人を、課長は呼び止めた。 「おい、二人とも」 「なんですか」 「次は『自殺した』なんてふざけた言い草よりも、もっとマシな言い訳を聞かせてくれ」 「善処します」 にっこり笑って頷いたルカを見て、課長は思った。 あいつら、確信犯だな、と。 |