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「あの・・・」 「なに」 孔雀はスプーンをくわえたまま、顔を上げた。 「あの、孔雀さん、そんなに召し上がって、お腹こわしませんか・・・？」 今日は珍しく孔雀がアイスクリームを持ってきて、「一緒に喰わねー？」と食べさせてくれた。 ただし、ホテル用アイス業務用パック、内容量は一リットル。 志野はごくごく普通の大きさの器に、ごくごく普通の分量だけ入れてもらい、ごくごく普通に美味しくいただいた。その残りは、孔雀がパックから直接スプーンを突っ込んで食べている。「食べたい分だけ取って食べる」という選択肢は孔雀にはないらしい。 「別に腹なんかこわさねーよ。今日買ってきたばっかりだし」 蓋を志野に向けて、賞味期限を見せてくれたが、志野が言っているのはもちろん、そんなことではない。 「いえ、そうじゃなくて・・・そんなにたくさん召し上がると、お腹をこわしませんか、って」 「大丈夫だよ」 そう言われれば、「孔雀がお腹を壊して呻っている」状態が思い浮かばない。拾い食いしても平気そうだし（ただし彼はアルファ・ゾーンの母親に厳しくしつけられているから、決して拾い食いなぞしないだろうが）、腐ったものでも「何か味がヘンだったけど、どーってことなかった」などといってけろりとしていそうだ。 志野がそんなことをつらつらと考えていると、孔雀が言った。 「大丈夫、そんなに心配しなくても、ちゃんと翡翠にもやったよ」 「え、アイスクリームをですか？でも、・・・」 確か、孔雀がアイスクリームの容器の蓋を開けたとき、まだ新品の状態で、志野も仕事上仕入れることもあるが、個人的に消費するために買っている人を見るのは初めてかも、と思ったくらいだ。では、昨日か一昨日か、とにかく違う日に治安『法廷』へ行ったのだろうか。 「チョコレート味のやつ。お前はバニラが好きそうな気がしたからバニラにしたけど」 「あ、はい、私はバニラの方が」 「さっき喰ってきたけど、翡翠はチョコレート味も美味しいねって言ってた」 「へえ、そうですか・・・って、あの、『さっき』？」 さっき？ さっき、とは「つい先ほど」という意味だったよね？昨日とか一昨日とかここ一ヶ月の間にとか、そんなに長いスパンを表す言葉じゃなかったよね？ 混乱しかけている志野の気持ちに気付かず、孔雀はしゃくしゃくとアイスクリームを掬っては口に運びながら、続けた。 「うん、さっき。昼飯の後に」 「二時間もたってないんじゃないんですか？！」 「そうだなあ、まあ大体そんなとこ？」 「孔雀さん、いくらなんでも食べ過ぎです、お腹こわしますよ！」 「だから壊さねーって、さっきも見せたろ」 「いえ、賞味期限じゃなくて、食べる分量の話をしてるんですよ！」 「分量って」 孔雀は顔を上げると、不思議そうに首を傾げた。 「たかが二リットルだろ？」 「たかが、って、それだけ食べれば十分です！」 「足らねーって」 アイスクリームを二リットル、まあ数人にお裾分けをしているから若干は減っているだろうが、それでもほぼ二リットル、それを一人で二時間の間に食べて、「足らない」？ それは、人間の発する言葉なのか？ 「・・・ホントに、ホントですか？それって、ホントに孔雀さんの本音なんですか？」 「足んねーよ」 間髪入れず返事をして、そして孔雀は大きく頷いて見せた。 「俺の本音。」 「・・・そうですか・・・」 それ以外、何を言えと。 本人が幸せなら、それでいいではないか。 志野は孔雀に、コーヒーをいれてやった。いや、正しくは孔雀の胃に。 時として、人外の働きを要求される胃をねぎらうために。 |