|
「・・・あのな」 孔雀は目の前に立つ青年を睨みつけた。 「お前ふざけてんのか？」 「僕はこの上なく真面目だよ。君こそ真面目に答えてくれないか？」 翡翠は穏やかに、笑みを浮かべている。だが、その笑みこそが「治安『判事』の氷の微笑」などと呼ばれている、この上なく剣呑なものであると知れ渡っているものだ。『ガーディアン』と治安『判事』、二人の静かな睨み合いは一人の溜息によって終止符を打った。 「『判事』、決裁をお願いしたいのですが」 「ああ、そうだったね」 「こらっ、俺だけ置いていくな！」 「だって仕事だし」 翡翠は先ほどまでの冷たい笑みなどどこかへ消し去って、軽く肩を竦めた。 「それに、百万年待ったって、君がマトモな返事を返してくれるとは思ってないし」 「聞く前に諦めるな！」 「イヤだよ、面倒くさい」 「良いから訊けってば！」 「はいはい」 おざなりな返事を返した翡翠は、心底面倒くさそうに言った。 「僕の名前で勝手に飲み食いした代金、返してよ」 「嫌なこった」 「ああそう。じゃ若葉、これを頼むよ」 「はい」 「こらーっ、真面目に聞けよ！」 「どうせ返してくれないんじゃないか、一生懸命訊くだけ労力の無駄だよ！」 「それでも訊けよ！」 「どうして？」 「お前が嫌がらないと嫌がらせの意味がなくなるからちゃんと訊け！」 「それこそ嫌なこった！」 案外、翡翠も大人気ないのかもしれない。 若葉は決裁をもらった書類を持って、二人が揉めている部屋を出て行った。 |