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この世は弱肉強食の世界だ。強い者が生き残り、弱い者は滅びるか、緒鋳物におもねって生き延びるしかない。人の世は、そんな獣じみた状態にまで退行している。 「誰かが生きるためには、誰かが犠牲にならなければならないのは当然の理屈だ」 十人中十人、いや、百人でもが「美しい」と褒め称える美女、マリア。 尤も、ラパス連邦警察所属のデノン・タウン駐在連邦捜査官の彼女を恐れ、怯えているのは二百人や三百人ではきかないのだが。 「つまり、この世は何かの、誰かの犠牲がなければ成り立たない、と？」 相棒の童顔の刑事、ルカに重々しく頷いたマリアは、言った。 「犠牲がなければ成り立たない！」 「つまり僕らのお昼ご飯も？」 「その通り」 「でも僕、昨日も支払いを持ちましたよ」 デノン・タウンの警察の中でも、正面切って堂々と文句を言えるのは刑事課に属する、本当に数少ないメンバーだけだ。もちろんこの同じく連邦捜査官、ルカもその中に入っている。 「その前はあたしが払ったろ」 「一昨日も僕です」 「じゃ、その前にあたしが続けて負担した日があったはずだ」 「ないです。マリアさん、僕の記憶力と記録媒体を甘く見ないで下さい。ここ半年のデータが全て整理保管され、・・・」 云々。 給与のかなりの部分を注ぎ込んでいる最新メカニックの説明やら自慢やらよくわからないものを滔々と演説していたルカだが。 「・・・なあ、ルカよ」 「何です、マリアさん？」 「この世は弱肉強食の世界だ。それは認めるな？」 「はい、残念ながら認めざるを得ない状況ですね」 「何らかの犠牲がなければこの世は成り立たないことも？」 「ええ」 「今、昼飯を食うのは誰と誰だ？」 マリアとルカの目が合ったまま、数秒、沈黙が流れた。 そして。 「しょうがないなあ、今日は僕が奢ります」 「すまんな、この間店をぶっ壊した弁償金の支払い中で、金欠なんだ」 「もう、マリアさんはいつも金欠じゃないですか」 最初から素直に言えばいいのに、と後ろに並んでいた人間はそう思うだろうが、それはそれで二人の間には意味のあることなのだ。 どんな意味があるのかは、当人すら知らないのかもしれないが。 |