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小春日和の暖かい居間で、母は我が子を愛しげに優しく見つめていた。だが向かいに座る子の表情は恐ろしく、固い。 そっと動かした息子の指先を見て、母は慈母の笑みを浮かべ、同じように、しかしはっきりとした強い意志の力を持って手を動かした。 「王手、飛車取り」 「ああぁああぁあああぁぁぁ！」 息子ーーー孔雀の口から絶叫が迸った。 「待った！今のナシ、待った！」 「待ったは三回まで、って決めたでしょ」 「そこを何とか」 「だってもう五回目よ？」 「そこを堪えて下され吉良殿、いま一度！」 「いやーよ」 孔雀のアルファ・ゾーンの母、美由紀は溜息を吐いた。 「アンタほんとにこの手のものは弱いわねえ」 「うう、うるせい、今じっくりと考慮中だ！」 「飛車角二枚落ちなのに三十分保たないじゃない」 次は金も落とそうか？などと屈辱の言葉を聞きながら、孔雀は唸った。 チェスでも、クイーンとビショップ、三駒を落としてもらった勝負であっけなく負けたのだ。孔雀が強いのは麻雀やポーカー、人生ゲームなど、運も大いに味方するものだけだ。 「・・・いくら考えてもダメだってば、アンタもう詰んでるから」 「ううう、うるせい」 「お母さん、晩御飯のお買い物行ってくるから、片づけといてね」 母の何気ない、しかし無情の一撃を加えられ、それでも一人粘っていた孔雀だったが、十分後、ようやく孔雀は負けを認めて渋々駒を片づけ始めたのだった。 |