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「・・・ねえ、孔雀？」 「何だよ」 一時のように「半径一メートル以内に近付くな！」と怒鳴ってメートルさしを振り回すことはなくなったが、すぐ隣や前に座ろうという気はないらしく、会話をするには微妙に離れすぎている距離をおく孔雀。 尤も、初対面で、飲んでいる紅茶に十倍濃縮タバスコなんぞを入れられる経験をした相手では、うかつに近付きたくないと思うのは当然の人情ではあるが。 「孔雀って好きな人、いた？ベータ・ゾーンで」 「居たって言うか、なんていうか」 孔雀は首を傾げて少し困ったような表情になった。 「・・・抱こうって気になった程度にはな。それがお前の言う、好き、に当てはまるのかどうかはわかんねーな」 「その人、今どうしてるの」 「さあな」 「別れたの？それとも」 それとも。 殺したの？ 「ナイショ」 「ケチ、教えてくれたっていーじゃん」 「俺にも言いたくないカコの一つや二つはあるのだ」 「ウソ、小学生の時の作文、全部翡翠に読まれて恨んでるくせに」 「野郎、お前に喋ったのか！」 星夜はいかにも残念そうに首を振った。 「孔雀のお母さんから読ませてもらった、って話を聞いただけで、中身は全然教えてもらってないよ。知ってるくせに、翡翠の性格くらい」 「・・・一応確かめただけだ」 「・・・ねえ、孔雀？」 「何だよ」 「僕には理解できないんだけど」 「何を」 「どうして人なんか好きになるわけ？どうして子供なんか作るの？」 大人なんて嫌いだ。 みんな死んじゃえばいい。 天才科学者、空知星夜の心の奥には、彼にしかわからない、大人への黒い憎悪が渦巻いている。 生きながら死に、ガラスの密室へ母を閉じこめた星夜の気持ちは誰にも、・・・おそらく、当の母親さえわからないだろう。 「・・・お前はまだ子供だ」 孔雀はぽつりと呟いた。 「子供のままでいるつもりなら、理解しようなんて思わねえことだ」 ふらりと立ち上がり、治安『法廷』を出ていく孔雀を、星夜は呼び止めなかった。 孔雀の言葉の中に、何かがあることを感じたから。 「・・・孔雀ってホント、大人か子供かわかんないよね」 星夜は溜息を吐き、肩を竦めるのだった。 |