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「お前さ」 「うん」 「首絞められるのと包丁で刺されるのと、どっちが良い？」 「どっちもイヤ」 半分以上聞き流しながら翡翠が答えると、孔雀が真面目な顔で詰め寄ってきた。 「どっちか選べよ」 「だからどっちもイヤだって」 「どっちもイヤだなんて子供みたいなこと言ってんじゃねーよ。どっちか選べ」 「…あの、絶対にどちらかを選ばないと、まずいわけ？」 「まずい。」 断言されて、翡翠は思わず黙り込んだ。 まあ、嫌われる覚えは山ほどありすぎて、そのうちのどれを根に持たれて恨まれているのか見当も付かないし、その恨みが殺されるほどに積もり積もっているものかどうかも、もう自分自身では判断がつかないほどになっていて。 「…それを聞いて、どうするの？」 「なんでもいーじゃん」 いや、良くないけど。 けれども。 「じゃあ、…首を絞められる方がマシ、かな」 「どうして？」 「どうせ殺されるなら、少しでも苦痛が少ない方が良いから」 「首絞められる方が苦しくないのか？」 「まあね。それに、死ぬ前に酸欠で意識を失うかもしれないし。死ぬまで意識がハッキリしているよりは、マシだろう？」 尤も、まだ刺し殺されたことも絞め殺されたこともないのだから、どちらが本当に苦しいのかなどということは翡翠にはわからないが。 とりあえず答えると、孔雀はこくりと頷いた。 「やっぱりな」 「何が？」 「お前は死ぬときは畳の上で死にたいタイプだな」 「あの…」 先程の答えから、どこをどうやってその結論を導き出したのか。 というか、畳の上では死にたくない、壮絶に誰かに殺されて死にたい、という人間が居るのか。 というか、えーっと、その、あの……… 「…うん」 どこから何をどう突っ込めば良いのかわからなくなった翡翠は、とりあえず「畳の上で死にたいと思っている人間である」ことを肯定してみることにした。孔雀はそんな翡翠を見て満足げに頷き、言った。 「あのさ、今日お袋がお好み焼き作るって言ってんだけど、お前も来るだろ？」 「あの…お邪魔するって約束してたけど、お邪魔するつもりだけど、でも、ちょっと聞いて良い？」 「何を？」 「もしも断ったら、どうなるの？」 「一人分減らして作るだけだよ」 「他には？」 「別に。ああ、お袋とか親父は『残念ねー』って言うかも」 「…もう一つ、聞いて良い？」 「何だよ」 「さっきの質問、そのことと何か関連があった？」 「別にないけど」 「じゃあ、どうして聞いたの？」 「何となく」 不思議そうに首を傾げる孔雀のほうが余程不思議だと思ったが、翡翠は黙っていた。そんなことを言ってみたところで、何故翡翠が不思議だと思っているのか、何故疑問を抱いているのかなどということを素直に理解してくれる相手ではないと思ったから。 「…あのね」 「何だよ」 「君が僕を殺すときは、絞め殺すようにしてくれる？それよりは、全然気付かないうちに死んでるくらいのほうが嬉しいかな」 「お前、殺されて死にたかったのか？」 「いやだから例えばの話」 「ああそうか」 覚えてたらな、と適当に聞き流して、真剣にコーヒーに砂糖をぶち込んでいく孔雀の姿を眺めながら、翡翠はぼんやりと、自分は誰にも殺されずに畳の上で（正確には病院のベッドの上で、だろうが）死ぬことになるんだろうな、と思っていた。 |