|
いつもの場所、いつもの会話、いつもの食事。 そう、ここは二人の愛の逢瀬の場。 のはずもなく、翡翠は目の前に並ぶ皿や丼の乗ったトレー群を思わずぼんやりと頬杖をつきながら眺めた。 カレーライス。月見うどん。山かけそば。カツ丼。ハンバーグ定食。焼肉定食。ラーメンライスセット。山菜飯。エビグラタン。ミートスパゲティ。唐揚げ定食。「本日のランチＡセット」。 「・・・あのさ」 「なに」 「僕、月見うどんを頼んだんだけど、間違って君の方にもオーダーが通ってしまったわけじゃないよね？」 「そうだよ、俺も頼んだし」 「・・・誰かを呼んでるわけじゃないよね？」 「何で俺が？誰を？」 「いや、愚問だった、取り消すよ」 全部で十二食か。四日分が一回分の食事として向かいに座る孔雀の腹の中に収まるわけだ。何の苦労もなく。ただ、その支払いが翡翠に回ってくること以外には、何一つ不思議なことなどない。 いやいや違うって、不思議だってば。 思わず翡翠は内心で自分の考えを否定してから、溜息を吐いた。 「どーした？」 「そのあと、デザートも食べるんだろ？」 「うん」 「僕には真似できないなあと思って」 孔雀は翡翠の前に月見うどん、たった一つが置いてあるのに今更気付いたかのように肩を竦めて言った。 「まだ、まだ俺には及ばないな」 誰が及びたいもんか。 |