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「お前はあたしが嫌いか」 ファイルを探していたルカがきょとんとした顔で振り返った。 「僕がマリアさんをですか？」 「他に誰が居る？」 その時、課室にはたまたま戻ってきたマリアとルカ、そして課長しか居なかった。 「課長もいらっしゃいます」 「カゲでハゲチャビン扱いしても面と向かってお前呼ばわりするほどあたしは無謀じゃない」 「・・・聞こえとるぞ」 「聞こえんフリをするのが管理者たる者の心構えというものです」 言い放ったのがマリアでなければ絶対に灰皿（しかも無駄に鉄製でとても重い）が飛んでくること間違いなしの科白をさらりと吐いて、マリアは課長を会話からオミットした。 「で、どうなんだ」 「ひどいです、マリアさん、僕がマリアさんのことを嫌いなわけないでしょう？」 「じゃあ何でお前は無理な注文ばっかりあたしにする」 「無理な注文って」 「無理しないで」 「・・・それのどこがどう無理で僕がマリアさんを嫌いな理由に」 「無理しなきゃどうにもなんねえからあたしがお前と組んで無理やってんだろ。それをだ、無理しないでってことはだ、一体あたしにどうしろってんだ？」 今日も二人は麻薬取引のアジトを一つ、潰してきた。多少の打ち身や擦り傷は怪我のうちには入らない、というのは刑事課メンバーの見解の一致するところだったが、今日はたまたまルカがほんの軽い銃創を負った。仕事に支障なし、というドクターの診断を受けてから二人は課室に戻り、そして冒頭の会話へと至るのである。 「片方が怪我したらもう片方がカバーすんのは当然だろ」 「カバーしてくれる相棒に『無理するな』っていうのも当然だと思いますけど」 「じゃ、挨拶と思って良いんだな？」 いきなり気遣いが挨拶に格下げか、とルカは苦笑したが、黙って頷くことにしておいた。 これ以上話を細かく、且つややこしくすると、マリアは本気で怒り出し、ルカを本気で殴るに違いないから。 哀しい事実だ。 「まあそんなものです」 「じゃあ許す」 第一、あの場では無理って程のことをするような窮地でもなかったろう、とぶつぶつ不満そうに呟くマリアを見て、ルカはそっと微笑んだ。 |