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「俺は今、猛烈に怒っている」 「君が怒ってないところってあんまり見たことない気もするけど」 翡翠は面倒くさい書類を前に頭を悩ませながら、孔雀の言葉を右から左へと聞き流した。 「こらーっ、聞いてんのか！」 「何を」 「何でテレビαチャンネルのお天気お姉さんが交代させられたんだ！」 「・・・誰それ」 「ゆうこおねーさんっていって、可愛くて美人で、天気予報もすっごく良く当たってたのに、今月から違うヤツに変わったんだ！」 「それって寿退社かフリーになったってことじゃないの？」 「他のチャンネルには出てないっ！他の時間帯も俺は全部チェックしたんだ！」 「じゃあ引退したか、他の部門へ異動したんだろ」 「お前は何でそんな他人事みたいに！無責任だぞ！」 「む、無責任？！」 「そうじゃねーか、『どっか行ったんだろ』で済ませてんじゃねーか！」 「ちょっと待てっ、治安『法廷』の人事ならともかく、何で僕がお天気予報のお姉さんの進退の責任までとらされるんだ？！」 「だってお前はエライ人なんだろうが！」 「エラ・・・」 翡翠は睡眠不足気味の頭の中が一瞬にして完璧に漂白されたのを感じたが、すぐに立ち直った。 この程度でいちいち自我を崩壊させていては、孔雀と付き合っていくことなど出来ない。 「僕がエライのは一部の人に対してのみだ！僕よりエライ人は掃いて捨てるほどいる！」 「てめ言い逃れすんのかコノヤロ！」 「『大判事』をみろ、僕よりずっとエライぞ！」 「じゃあ『大判事』が悪いのか！」 「そうじゃなくて！」 翡翠は続けて何か怒鳴ろうとしたが、大きな溜息に変えて、言った。 「・・・αチャンネルの広報部にでも電話して聞いてみたら？ゆうこお姉さんは異動されたんですか、って」 孔雀は翡翠を睨み付けていたが、やがて不承不承、頷いた。 「それは気付かなかった」 「そう。多分、それが一番早いと思うよ」 こんな見当外れのところで怒鳴って文句を言っているよりも。 「そうする。αチャンネルの電話番号、知ってっか？」 「番号案内で聞くのが正確で早いと思うね、僕は」 孔雀が帰った後、翡翠は少しの間、ぼんやりと書類を眺めていたが、やがてデスクからフラフラと立ち上がった。 「コーヒーでも飲も・・・」 |