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「ひーろーみー」 とんとんとん。 誰が開けるものか。一度開けたが最後、地獄が待っているのは明らかだ。 「ひーろーみー」 聞こえない。 聞こえないったら 「ひーろーみーッ」 どがん。 「アンタはひとんちのドアを蹴り破るのが趣味なのかーッ！」 引っ越したばかりの新居の扉を蹴り壊されてはたまらない。怒りについ外へ飛び出して怒鳴りつけると、孔雀はけろりとした顔で言った。 「あ、居た」 「居なきゃどうするつもりだったのさっ」 「居るんなら早く出ろよ」 「…出たかったら出る。アンタに命令される謂れはないっつの」 「あのさ、『お水取りの地下道通って若狭へカニ喰いに行こうツアー』の出発日、今日なんだけど」 「…だからさ、この間教えてあげたでしょ？お水取りの由来から、実際の行から、何から何まで」 「聞いたよ」 一体こいつはナニを聞いていたんだ。 広見は溜息を吐いた。 「…若狭から通じてる地下道なんかないから」 「でも水は来るんだろ？」 「きっ、気持ちだけが来るの！水脈も地下道もないの、わかる？！」 「うるせえ、地下がダメなら地上を行くまでだ！」 「ツアーの趣旨変わってんじゃん、アンタ！」 孔雀は手に持った「広見と行く『お水取りの地下道通って若狭へカニ喰いに行こうツアー』」と書かれた（書いたのはもちろん孔雀だ）の「お水取りの地下道通って」までをマジックでいとも簡単に消し去り、「な？」と言ってのけた。 「な…なんでそこまでして私を…」 「仲間だから！」 「仲間ぁ？！」 「カニツアーの」 近頃ようやく、イヤイヤながらも「顔見知り」から知人程度には昇格させても良いか、いやせざるを得まいか、と思い始めてきたのだが、友人すら通り越して、「仲間」？ よりにもよって？ 「あとな、翡翠と志野は正会員だから」 「へー………」 それ以外に一体何を言えと言うのか。 広見は玄関に立ち尽くし、治安『判事』の陰謀（？）が発動して無事ツアーが頓挫することをただ、ただ、祈るのみだった。 |