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勤務を終えて帰ってきた但馬が巡察部へ戻ろうとしたしたとき、なぜかそこにはうろうろと同僚たちが溜まっていた。狭いわけではないが、さりとて百畳敷きほどもあるわけではない廊下は、十二分に通れない程度に邪魔だった。 「なにやってんだよ、通れないじゃん」 「あ、但馬・・・」 「道路工事でもやってんのか」 「その方がまだマシ」 こっそりと呟いて、指差した先には・・・・・ 「あり、治安『判事』と揚羽係長？」 彼らが法律大学の同期で、案外仲がいいらしいというのは知っている。だが、今の二人の間には冷たい空気が張り詰めていた。本人たちは「単なる立ち話」のつもりかもしれないが、部下たちがその横を通れないくらいには、剣呑な雰囲気を醸し出していた。 「何かあったのか？」 「この間、強制出動命令が出たろ」 「え？でも査問は『法廷』内の問題だろ？『警察庁』は関係ないじゃん」 「いや、信乃が怪我したから、労災問題で人事部にも関係が出たらしい」 「ふーん・・・それにしても」 但馬はその続きを呑み込んだが、気持ちは皆同じものを持っていた。 廊下で立ち話をするのは止めてくれ。 怖いから。 「巡察官が一人負傷したのは知っているけれど、それについて治安『判事』として謝罪をするつもりはないよ。私が出したのはあくまでも業務命令なのだからね」 「そんなことはわかっている！」 「では、あの時のことで他に一体なにがあると言うんだ」 「勘違いするな。出動命令はお前が治安『判事』として様々な状況を鑑みて出すものだ。我々巡察官はそれに従うだけだ、それについて文句を言うつもりはないし、言う権限も無い」 「え？」 「ついでに言えば、個人的にはあれは適切な処置だったと思っている。あれ以上被害を拡大させないために必要なことだった」 恐ろしいほどの喧嘩腰で翡翠を呼び止めた揚羽の言いたいことは、てっきり先日出した強制出動命令のことだと思っていたのに。肩透かしを食らったような心持で、翡翠は首を傾げた。 「じゃあ、一体・・・」 「お前に言わなければならないことがある」 「なにを？」 「文句があるのは私ではない。総務だ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・総務？」 巡察部、あるいは人事部ならばまだ少しは接点があるから、苦情や文句が出てくるのは理解できる。だが、総務が、何故？意外な言葉に、大きな緑の目がさらに大きく見開かれる。 「あの時、色つき雀が特別機動隊のヘルメットを一つ持っていってしまったんだ。返せ」 「・・・あのバカ鳥・・・！」 「大体、人事部の仕事にヘルメットの管理なんか無いというのに、総務はみんな私に話を持ってくる。良い迷惑だ！」 揚羽はイライラと翡翠を睨み付けた。道理で、機嫌が悪かったはずだ。 「そもそも、何であいつがヘルメットなんか欲しがるんだ。どうせ火焔呪で全て燃やし尽くしてしまうくせに。大方、突撃ゴッコでもして遊ぶつもりなんだろうが」 「・・・多分、母上の鉄拳制裁から逃れるために欲しかったんだと思うよ・・・」 「じゃあ、その母上とやらに頼め」 「善処するよ・・・」 ヘルメットの行方探しが管轄業務にないのは治安『法廷』も同じだ。だが、その張本人が孔雀であるならば・・・部下の不行跡は上司である治安『判事』に掛かってくる。監督不行き届きというわけだ。 「それからな」 「なんだい」 「壊れていたら弁償だからな」 「・・・最初から弁償しろって言った方が誠実だと思うよ、揚羽・・・」 「モノには順序というものがあるだろう」 「孔雀に関しては、要らないから・・・」 「わかった、次からそうする」 次なんか要らないから。 翡翠の目はそう訴えていた。 |