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「ぎゃー！」 いつもは物静かな光だが、今日はやけに騒々しい。テレビでも見ているのかと思ったが、ただ単にテレビを見ているだけにしてもやかましすぎる。何かそれで邪魔をされているわけでもなかったが、少々気になった宗佑が部屋のドアをノックしてみる気になったのは、やたらと光が悲鳴を上げるからだった。 「光？」 「なにー？」 「開けていいか？」 「どーぞ？」 いつもと変わらず、あっさりと入室の許可をくれた光にいささか戸惑いながらドアを開けると、・・・ 「・・・何やってんだ？」 「見りゃわかんだろー、ゲームじゃん」 「お前、ゲームなんか持ってたか？」 「借りたんだよ」 「へえ？」 光は画面を見つめたまま、くすっと笑った。 「友達にさー、タケシってのがいるんだけど。そいつ、テストの点が悪くって、親にゲーム全部棄てる！って怒られて、今度のテストは頑張るからって約束で、俺に預かってて欲しいって持って来たんだよ」 「ゲーム機ごとか」 「ソフトより本体のが高いだろ？」 「そりゃそうだ」 「笑っちゃうよなー。ジュクで『狂犬』とか言われてビビられてるヤツが、ゲーム棄てられるって泣きそうな顔してくるんだもんなー」 遠慮なくゲラゲラ笑う光に、宗佑は思わず苦笑した。 「ひでえな、お前のダチだろ？」 「ダチでも可笑しいもんは可笑しいよ」 「そいつの前でも笑ったのかよ？」 「いや、他にも居たから」 ふん、と宗佑は鼻で笑ってテレビの画面に視線をやった。 そう・・・、こんなところでも、ちゃんと相手のプライドを考えてやらなければ、人の心を掴むことなど出来はしない。例えそれが子供であっても。 「・・・ぎゃー！またやられたー！」 光が朝から騒いでいたのは、これだったのか。宗佑はしげしげと画面を見つめた。 「・・・お前、ゲーム下手なのか？」 「うん、俺ゲームって殆どやったことないから」 「さっきからぎゃーぎゃー悲鳴上げるばっかで、殆ど進んでないじゃないか」 「しょうがないじゃん、ここで秘密アイテムとやらを見つけないと、この後でもっと苦労するらしいんだ」 「ふーん」 「ったく、さっきから躓いてばっかだよ」 「何だそれ？」 「んー？ゲームの中でさ、長老とかいうジジイが言うんだよ」 「何て？」 「歩くんだ。この長い人生を躓くことなく。」 光はひょいと肩を竦めた。 「それが何かのヒントになってるらしいんだけどさー・・・全然わかんねーっての」 「説教みたいな台詞だな」 「大体さー、長い人生、躓かずに歩いていけるやつなんて居ないだろ」 「そうでもないだろ。お前だって、まだこれからだし」 「・・・俺はもう躓いたよ」 ふと真面目な表情になって、宗佑の顔を見た。 「今でも、アンタが喋ったら、俺はブタ箱行きだろ」 「・・・喋ったところで、ブタ箱には行けないよ。そんなことで気にしてるんなら、・・・」 そんなことで、恩義を感じているのだとしたら。 負担を感じているのだとしたら。 ・・・宗佑は、光を解放してやらなければならない。 「気にしてるとかじゃなくてさ。・・・」 光は微かに苦笑を浮かべて、首を振った。ぼんやりとした目は、何も捉えてはいなかった。あの日のことを、思い出しているのだろうか。 「躓いたことがない人間よりは、躓いたときの痛みを知っている人間のほうが、幅があらあな」 「だからって躓きたい放題ってのもどうかと思うよ、とーちゃん」 「何だと、このやろー！」 |