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「ねえ、孔雀さん」 舞は久しぶりに再会した孔雀に問いかけた。 「翡翠さんって結婚されないのかしら？」 以前、舞は郊外の療養所で長期静養生活を送ったことがある。その時、たまたま隣室へ入ったのが翡翠であり、翡翠の「護衛官」をイヤイヤ勤めていた孔雀とも知り合ったのだった。 「あのな、舞々。結婚は一人じゃ出来ないんだぞ？」 「それくらいわかってるわ」 「わかってんなら、結婚しねーんじゃなくて出来ねーんだってこともわかんだろーが」 「そうじゃないのっ。そうじゃなくてっ・・・翡翠さんてとても綺麗なお顔立ちだし、女の人からも人気があるみたいなのに、全然そんなこと興味ないって感じだし・・・不思議だなって」 「・・・俺はそんなことに興味を持ってるお前のほうが不思議だけどな」 孔雀は肩を竦めた。 「でも多分あいつは結婚しないよ」 「どうして？」 「女のカンだ」 「女の・・・カン？」 舞は大きな目を更に見開いて、自信満々に言い放った孔雀の姿をしげしげと頭から爪先まで見下ろし、見上げ、穴の開くほど顔を見つめた。 「・・・孔雀さん、女の人だったの？」 「んなワケあるかー！」 「でも、女のカンって」 「俺のお袋のに決まってんだろー！」 良かった、と舞は内心胸を撫で下ろしていた。孔雀さんのことは好きだけれど、こんな女性がこの世にたった一人でも存在するとしたら、殆ど犯罪よね、と。 「孔雀さんのお母さんって、アルファ・ゾーンの？」 「うん。翡翠さんはこの先結婚しないつもりなのねーって」 「どうして？」 「だから女のカンだって言ってんだろ。俺が知るかよ」 ふん、とまるで拗ねたようにそっぽを向いた孔雀だったが、やがて、ぽつりと言った。 「・・・あいつ、昔に誰か亡くしたみたいだからな」 「誰かって、恋人？」 「さあな」 それ以上は興味が失せたように、孔雀はぼんやりとした目で遠くを眺めていた。 舞も、それ以上のことを訊く気にはなれなかったのか、同じように黙り込んでいた。 が。 「・・・翡翠さんも、大変よね」 「あ？」 「だって、ベータ・ゾーンでの孔雀さんのお母さんみたいなものでしょう？結婚もしないのに大きい子供がいるなんて」 「何で翡翠が俺の母親なんだよ？！」 「え、でもそうとしか見えないんだけど・・・」 「んなワケあるかー！！」 そんな二人の後姿を見つけた翡翠が、血を吐きたくなる気分に陥っていたことなど知らないように、二人は他愛もない言い合いを繰り広げていたのだった。 |