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川の中洲で、縛られた女性がもがいている。顔色を変えた千歳三等巡察官を嘲笑うかのように男が言った。 「さあ、どうする？川の流れは深くて速い。泳いだところで向こうへたどり着くには時間がかかりすぎる。その間に女は溺れ死んでしまうぞ？」 「助けるとも！」 千歳はきっと男を睨みつけ、叫んだ。 「この身を捨てる覚悟で！」 男は黙って千歳を見ていたが、やがてふうっと重い溜息を吐いた。 「何かクサすぎる台詞だよなあ・・・俺、笑い出しそうなんだけど」 「ってかさ、但馬の台詞、ものすごく説明口調だよね」 「そもそもこのストーリー、ガキの前でやるには刺激がきつすぎね？」 「んー。夢で見て泣き出す子も居るかもね」 二人は台本を机に放り出し、椅子にもたれかかった。 「大体さあ、よい子の前でやる劇なんて、広報の仕事だろー？」 「係長がさ、ヘンなところでリアリティを求める人らしくって。巡察官役には本物の『トレーサー』使って立ち回りさせたいんだって」 「俺らが本気でやりあったら『トレーサー』にだってビビられたんだぜ？ガキがひきつけ起こしても知らねーぞ」 たまたま二人が選抜訓練で研修所に入っていたとき、同じ期間中に入っていた新規採用訓練生のために模範を見せるよう要請されたことがあった。二人はいつもどおりの訓練気分で立会いを演じたのだが、刃を落としてあるとはいえ、当たれば確実に骨が砕ける模擬刀での立会いは、「見本」どころか却って訓練生を怖気づかせるだけの結果に終わってしまったのだった。 「あん時ゃ後味わるかったよなー。俺ら殆ど悪人扱いだもんな」 「そうそう。手加減無しでやれとか言ったくせにさー」 「こういうの好きそうなヤツいないか？」 「ダメだよ、割れ物コンビは」 「何で」 「モノ壊しすぎて書類仕事に無理矢理就けられてる」 「そんなのテキトーに理由つけて連れ出せばさ」 「・・・揚羽係長の前だよ？二人の机が移動させられたの」 「・・・移界捜査指令出そうな悪いヤツ、いないかなー」 「悪いヤツ探しの旅にでも出ようか？」 「いっそ『冥王』の宴会の誘いでも良いから」 口は災いの元。 本当に孔雀の「花見」に駆り出され、文字通り「身を捨てる」思いをさせられるハメになった二人は、心底反省したのだった。 |