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いつもはそこに居るか居ないかわからないような、ひっそりとしたたたずまいの青年『判事』がいる。『ガーディアン』機構の最高首班であり、何かと話題には事欠かない人物のはずなのだが、物静かな、儚いまでの美貌はいつも周囲の人間を近寄らせない、冷たい無表情しか知らないかのようだった。 今夜も遅くまで残業をすると決めた人々が夜食を摂るために食堂に集まり始める時間帯に、『判事』もやってきた。だが、今日は珍しく、一人ではなかった。 「だから、僕は忙しいんだってば！」 しかも、相手を怒鳴りつけている。声を荒げることすらない『判事』の珍しい姿に相手が一体誰なのかと確認して、・・・そして、納得した。 「俺だって忙しいんだ、ぐずぐず言うな！」 「お腹が空いてるなら君一人で食事をしたら良いだろ！どうせ僕の名前で食い逃げするくせに！」 「うるさい、今日は俺がお前に奢ってやるって言ってるんだ！」 小柄な治安『判事』の手を乱暴に引いている小柄な少年。だが、このやかましい少年は見かけ通りの五月蠅いだけの子供ではない。生きている段階ですでに「伝説」と化すほどの凶悪犯罪者、そして現在は『ガーディアン』である『冥王』孔雀。 「君が奢るって、どうせ僕がお金を出すんじゃないか！」 「お前の金で俺がお前に奢ってやるんだ！ありがたく思え！」 「だからそれ、奢るって言わない・・・」 「お前の財布を無理矢理持っていかないだけありがたいと思え！」 盗人猛々しいとはこういうことを言うのだろうか。まるで冗談のような言いぐさに、周囲の人間はもちろん、治安『判事』ですらすぐに反論できず、言葉に詰まった。そこへ追い打ちをかけた、孔雀の一言が飛んだ。 「喜べぇ！」 通常、治安『判事』は審判『法廷』へ出廷することはまずない。判決主文を読み上げることもない。だが、逆に言えば他『法廷』の『判事』たちと違い、相手を「説得」しなければならない機会が多い。当然、相手の主張を退けるために、理不尽どころか筋の通った言い分を打ち負かすだけの反対論を組み立てる頭脳とある種の狡猾さをも要求される。 だが、この瞬間の治安『判事』は、どこの誰よりも反応の悪い、相手の言い分を全て受け入れてしまう状態にまで陥っていただろう。 「・・・わぁい・・・」 「お前、どーせ夜定食だろ」 がっくりと肩を落とし、テーブルに着く治安『判事』と、厨房のおばちゃんと「今日はメニューの右端からうどん定食まで食う！」などと和気藹々と会話している孔雀と。対照的な二人の姿に周囲の人間は、少なくとも孔雀が『ガーディアン』でいる間は絶対に治安『法廷』には異動したくない、と『判事』に同情に満ちた視線を送るのだった。 |