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「行き先は地獄だ」 一度、先輩がぽろりとこぼしたことがある。 他に、もうどうしようもないとは言いながらも、殺人鬼に犯罪者を狩らせるプロジェクトなど、とうてい正気の沙汰とは言えない。好きで『ガーディアン』になった者ばかりとは限らない。まれには不承不承に治安『判事』の「飼い犬」になった者もいる。狩る者も狩られる者も、治安『判事』には好意の欠片すらも抱くことはない。 『ガーディアン』は司法員ではない。巡察官とは違い、彼らはあくまでも「人殺し」だ。人殺しに人殺しを狩らせる------そんな異常な命令を下し続ける自分が、まともな最期を迎えられるわけがない。きっと行き先は地獄だ・・・先輩はそう言った後、しばらくしてから、今の愚痴は忘れてくれ、と呟いた。 あれはとうて愚痴などとは呼べない。苛酷な現実につい口を滑らせてしまったのだと・・・私は思っている。 「おい、翡翠、居るかー」 ばあん、とノックもなしにけたたましく扉を開けたのは、何故か一番頻繁に治安『法廷』を訪れる孔雀。最強にして「最後」の『ガーディアン』。先輩と孔雀の関係は、ただ治安『判事』と『ガーディアン』の関係というだけではとても言い表せない。恐らく誰も、・・・当人たちですらも掴みきれない、複雑な何かがあるのだろう。 でも・・・・・ 「今日はなに」 「お前んとこ、ナベある？」 普通、ごく一般的に言って『法廷』にいかなる形状のものであろうとも、ナベなどあろうはずがない。そんなことは小学校へ通っている子供にだって判りそうなものだ。 「土鍋だったらあるよ。資料室の棚の下」 「だしコブ、まだ残ってたよな」 ・・・本当に、なぜそんなものが『法廷』にあるのだろう。 平然とした先輩の受け答えに、今更ながらに若干の疑問と眩暈を感じざるを得ない。 「じゃ、今日はナベだ」 小脇に抱えていた段ボール箱をどん、と机の上に置くと、先輩はちょいと指で箱を開いた。 「あ、鴨肉」 「合鴨だけどな。今夜はナベパーティーだ、朝まで騒ぐぞ！」 「はいはい」 先輩はもう、とうの昔に諦めて悟りきった、力のない笑みを浮かべていた。また阿鼻叫喚の地獄のような宴会と化すのだろう。 こんな時は、いつも思う。 もう十分、首まで地獄に浸かっているんじゃないだろうか、と・・・・・ |