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「なあ翡翠、目覚まし時計いらねー？」 「…また余ったの？」 翡翠が溜息を吐きながら問い返すと、孔雀はこくりと頷いて箱を突き出した。 「もらったんだけどさ。よく考えたら俺、アナログじゃなくてデジタルのが欲しかったんだよ」 「どっちでも同じじゃない」 「違うよ。だってお前、休憩が二時丁度までだったとしてだな、昼寝するまえに目覚ましをセットするのにアナログだったら時間調節が難しいじゃん」 「だから、五分前くらいに鳴るようにセットすれば」 「丁度三分前に鳴らしたいんだよ」 「何で三分じゃなきゃダメなの？五分だっていいじゃない」 「出来るだけギリギリまで寝ていたいだろ！」 …何故怒られなければならないのか、翡翠は眉を寄せたが肩を竦めるだけに留めておいた。 「…でもね、ここには壁時計も卓上時計もあるから…」 断ろうと思った時には、孔雀の姿はもうなかった。 「…引き取るって言ってないのに…」 もう一度溜息を吐いて何気なく箱をあけると、中から出てきたのは、黄色い熊がにっこり微笑んでいる可愛らしい目覚まし時計だった。うっかりこんなファンシーなモノを使っているところを誰か女性事務員にでも見られたりしたら、全『法廷』中に「治安『判事』さまはプーさんがお好きなんですって」などと根も葉もない噂が広がり、黄色い熊さんグッズが頼みもしないのに山と積まれることになるのは火を見るより明らかだった。 「……学習能力ないなあ」 最初に「要らない」と何が何でも断らなければ、いや断ったときでさえ孔雀は無理矢理に置いていくというのに。もう、イヤと言うほど経験してきたはずなのに。 「確か、若葉の従妹がまだ小学生だって言ってたっけ…」 捨てるわけにもいかない黄色い目覚まし時計を前に、翡翠は溜息を吐いた。 こんなに溜息ばかり吐いていたら、いつか肺がぺちゃんこになってしまうかもしれない、と思いながら。 |