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フェイナンがはあ、と溜息を吐くとジャックがイヤな顔をした。 「溜息なんか吐かないでよ、余計に辛気臭くなっちゃうから」 今日は朝からずっと雨が降り続いている。当然客足は鈍く、・・・というよりは、身内（＝居候含む）の人数のほうが常に多い状態で、八時を回った頃には誰も居なくなってしまった。 「ただでさえ鬱陶しいのに・・・」 雨で空気はじめじめとしているし、たった二人の吐き出す煙で視界は薄く濁っているし。そんなジャックの視線を受けて、フェイナンはむっと眉をあげて見せた。 「鬱陶しいとは失敬だな、どこぞの国の王子とも見紛う程の気品溢れるこの俺をつかまえて、こともあろうに」 「なにそれ」 途中でぷっつりと台詞を遮られてもさほど気にした風も見せず、肩を竦めた。 「今日言われたんだ」 「何て？」 「どこの王子様かって」 「・・・詳しく話してよ」 もう、今日はお客も来ないだろう。ジャックは「閉店」の札をかけると、紅茶を入れた。 「いや、今日はなーんとなくすっきりしない気分が続いてさ。で、つい『何でも誰でも思い通りに動くリモコンでもあればな』ってな感じのことを」 そうしたら、たまたまそこに居合わせたディーラーにその独り言を聞かれてしまった。そして投げつけられた言葉は、 「何でも自分の思い通りになると思ってるの？」 「信じられない、どこの王子様、あんた」 だった。 「で、フェイナンは何て返事したの？」 「王子様じゃないからリモコンが欲しいんだろ？って」 「・・・正論だけど、それ、王子様と間違われたとは言わないから」 「細かいことを気にするなぁ。ハゲるよ」 ぷかり、と浮いた煙の雲にシャワーを浴びせかけてやりたくなったが、この男には何をしても堪えるということがないような、妙な確信を感じていたジャックは肩を竦めるだけにしておいた。 「で、相手は何て？」 「何も言わなかったから納得してくれたんだろ」 「でも」 その時。 ことり、とカップを置いてカグラが言った。 「フェイナンならそんなリモコン、売っていそうね」 「・・・はい？」 「屋台村で、一つ４００Ｇ、って」 「・・・胡散くさ・・・」 「カグラさん、アナタこのワタクシを一体どーいう人間だと思って」 「見たままを答えたのだけど」 ------後日、サンドブランジュの屋台村のごくごく一部では、怪しげな商売、または行為のことを「リモコンを売るような真似」という言い回しが流行ったとか流行らなかったとか。------ |