|
ぽーん。 細い指がピアノのキーを押す。 「じゃ、この音は何の音かわかる？」 「ラ」 ぽーん。 「じゃ、これは」 「ソ」 放課後の第二音楽室には、他には誰もいない。肌の白い、繊細な顔立ちの少年と、日頃の快活さが全くなりを潜めてしまった、どこか不安そうな顔立ちの少年が一人。 「じゃあね、さっきと同じ音。これ、Ｇの音だよ」 ぽーん。アップライトのピアノから、澄んだ音が鳴る。 「何も考えずに声出して。ほら、Ｇの音」 「あ〜〜」 「・・・誠記、それＥ・・・」 がっくりと肩を落としたピアノの前の少年は、先ほどとは違うキーを押した。 「ほら、違うだろ？」 「でも俺、さっきソの音出した」 「違うってば、さっきのはＥだよ。ほら」 「・・・うん、違うな」 「違うのは判るのに、何で？・・・じゃ、ギターで音を出してみてよ」 ぽーん。 誠記と呼ばれた少年が弦を弾くと、正しくＧの音が奏でられた。 「じゃ、Ｃは？」 「これ」 「じゃあ、これは？」 誠記には見えないように、手で隠しながら弦をつま弾くと、やはり見事に音を聞き分け、当てて見せた。何度やっても、多少意地の悪い和音で試してみても、誠記は決して間違えない。むしろ、出題者の少年、和記がうっかり他の弦まで触れてしまうと、その音までも当てて見せて、逆にからかおうとしてくるくらいだ。 「・・・誠記さあ、何で聞き取りは出来るのに、声は出せないの？」 「わっかんねー」 「よくそれであんなに上手にギター弾けるよねえ・・・不思議・・・」 「ふんだ、いーもん。俺はギタリストになるんだもん。歌は和記に任せるもん」 「音痴のギタリストなんて聞いたことないよ」 「俺が世界最初の音痴のギタリストになれば問題ないもんね」 「ま、頑張ってよ」 スーパーミラクル音痴、と称される友人の音感の矯正はもはや不可能と諦めた和記は、肩を竦めてピアノの蓋を閉めたのだった。 |