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全く、今日も忙しい。たまにはヒマだヒマだ、このままじゃクビになるよー、などと嘆いてみたいものだ。千歳が肩に担いだ押収品をもう一度担ぎなおそうとしたら、箱の中に溢れかえっていたものが一つ、ぽとり、と零れ落ちてしまった。 「おっと」 バランスを崩さないように、そっと屈み込みながら手を伸ばしたとき。 「バカだなあ、いくら見たって予行演習にはならないぞ」 その声もさることながら、言われた内容のあまりの酷さに、千歳はがっくりと膝を着いてしまった。取り落とした箱の中からは、ガラガラと景気のいい音をたてて小さな黒い箱が大量に飛び出してくる。 「わわわ、そんなもん廊下にばら撒くなよ」 「…孔雀…」 両手を着き、がっくりとうなだれた体勢のまま、千歳が呟いた。 「これはね、押収品なんだ…」 「お前のじゃねーの？」 「違う。絶対違う。神かけて、違う！」 「レンタルビデオだろ？」 「違うってば！」 「エロビ」 「エロビに間違いはないけどッ、これはウラなの！ウラ物！違法なんだよ！」 「だってお前、そんな捜査に入んないじゃん。殺人とか、強力犯専門だろ？」 「ファミリーのアジトの捜査班に組み込まれたんだよ！こんなの持ってたらクビだよ、クビ！！」 思わず鷲づかみにした押収物件を孔雀に突き付けたが、すぐその隣に女性巡察官がいることに気付いた千歳は慌てて手を下ろした。 「あのさ、最近のレンタルビデオって、限りなく薄いモザイクしか入ってないんだってよ。裏ものなんか買うより、合法なビデオ借りた方がよっぽど良いって言ってたぞ」 「誰だよ、そんなこと言うの」 一人だけいい子になろうとして伝聞調で話すなんて、孔雀も根性が悪い。千歳が「どうせ自分の経験からだろ」と決め付けようとしたとき。 「翡翠」 「嘘吐け！」 「ホントだって。なあ、翡翠」 揚羽人事係長と何か話しながら廊下を歩いて来ていた治安『判事』は突然に話しかけられて小さく首を傾げたが、孔雀がもう一度モザイクの話をすると、こともなげにああ、と頷いた。 「裏ビデオなんて、何も映っていなかったり、全然違うものが入っていたりしても文句を言う先もないからね。違法なものに手を出すよりは余程いいものがあるよ」 さらりとエロビデオの話をする、その同じ口で、千歳にはわからないような小難しい法律の解釈論を話す治安『判事』。茫然と背中を見送っている千歳に、孔雀が話し掛けた。 「なあ」 「…なに」 「予行演習するんだったら、俺がイイとこ連れて行ってやるけど」 「…それも違法だろー！！」 |