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「なあ」 何時の間に潜り込んだのか、自分用に持ち込んであるマグカップになみなみとコーヒー…っぽい砂糖水を汲んだ孔雀が座っていた。 「それ、インターネット？」 翡翠の手元にある端末はどこにも繋がっていない。極秘データの流出を防ぐには、どこにも接続させず、独立させておくのが一番良い。多少の非効率には目を瞑るとして、だが。 「違うよ」 「パソコンだよ、とかいう屁理屈はナシな」 「君じゃあるまいし。この端末はどこにも繋いでないよ」 「家ではやってんのか？」 「たまにね」 「アレ、面白いのか？」 孔雀は今時珍しいくらいのＯＡ機器音痴だ。かろうじて文字キーをポチポチとさみだれ式に押すことが出来るレベルだから、自分でパソコンを購入して、などと縁起でもないことは考えたこともないようだ。 「高いよ、パソコン」 「誰が値段の話をしてるんだ」 「いや、特に目的もなく、漠然とインターネットに繋ぐ、なんて考えて買ってもあんまり活用できないなら高いだけで勿体無いって意味だよ」 「…そーなのか？」 「仕事で使う、とかネットオークションに参加したい、とかいうことなら別かもしれないけど…」 そこで翡翠は言葉を切って首を傾げた。 「インターネットに興味あるの？」 世間にとって、孔雀がネットに興味を持とうが持つまいが、大したことではない。だが、翡翠に限っては大きな影響がある。 一体誰が機種を選んでやり、プロバイダを選び、セットアップして使いこなせるように孔雀の世話を焼かなければならないというのか。自分のところへトラブルが持ち込まれてくることなど、火を見るより明らかではないか。 「別にないけど。なくても困らないしな」 「まあね」 「たださ、バイト先のヤツが、凄くハマってて、寝不足だって言ってたからさ。何がそんなに面白いのかと思って」 「まあ、人それぞれだと思うんだけど。…でも、止められない理由の一つは淋しいから、っていうのがあると思うよ」 「淋しさが解消されんのか？」 「本質的には何も変わらないよ。でも、同じ時間に、どこかで誰かが同じページを見ている、ってことがあるわけだから」 「同じ空間で繋がってる、ってことか？」 「一人じゃないって思える。夜明けまでの錯覚でもね」 翡翠の顔をじっと見ていた孔雀は、自分のマグカップに視線を落とすと、ぽつりと言った。 「インターネットって、何か、淋しいな」 「…まあね。所詮、みんな一人だから」 ずずずずず、とコーヒーを啜る音が不意にぴたりと止んだ。 「…どうしたの？」 「なくなった」 「あ、そう」 「…何か食いに行こうか？」 外は漆黒の闇。とうに日付が変わっている時間では、ロクな店も開いていないだろう。 でも。 「…いいね、行こうか」 一人じゃ、ないから。 |