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翡翠に「ハロウィンハロウィンて世間は浮かれてるけどありゃ何だ」と聞くと、１０月３１日の晩にお化けの格好をした子供たちが近所の家を回って「ＴＲＩＣＫ ＯＲ ＴＲＥＡＴ！（お菓子をくれなきゃイタズラするぞ！）」と脅して回って喰いモンを巻き上げて回る行事だと教えてくれた。 とりあえず翡翠に「何かくれ」と言ったら「よそへ行け」と怒鳴られたので、翡翠のカーテン（『法廷』の法服）で魔法使いのカッコをして「よそ」へ行ってみた。 「たのもー！」 バーらしい店の扉を叩いたのに、誰も返事しなかった。すぐに大人が扉を開けてお菓子をくれるって聞いたのに、話が違うぞコラ。 「おい！開けろ！開けてお菓子くれねーと火ぃ点けんぞ！」 軽く扉を蹴飛ばすと、白い髪に浅黒い肌の、大人しそうなにーちゃんが慌てて出てきた。 「ちょ、ちょっと君、フェイナンの知り合い？」 「おいおい、どういう判断基準だよ」 最初のにーちゃんの後からひょいと顔を覗かせたのは、黒い丸眼鏡をかけた、胡散臭い中国人っぽいヤツだった。 「ハロウィンは何か食わしてくれるお祭りだって聞いたぞ」 「・・・まあ大体当たってるかな」 「えーと、なんだっけ。そうそう、『ＴＲＥＡＴ＆ＴＲＥＡＴ！』」 「・・・何でどっちも『おごり』なわけ・・・？」 大人しそうなにーちゃんは、顔を引きつらせていた。どーにもこーにも細かいことに拘るヤツだ。翡翠と同じ様に、ハゲるか胃に穴を開けるか、どっちかってタイプと見た。 「どっちにしたってお菓子くれるんだろ」 「まあ、そうなんだけど」 「だったら文句言うな！さっさと奢れ！」 右手を突きつけると、にーちゃんの方は目を丸くしたまま黙ってしまったけれど、胡散臭いヤツの方は面白そうにニヤリと笑うと、妙に恭しく一礼して見せた。 「わかりました、では、お菓子の雨を降らせてお見せいたしましょう！」 それ、とか何とか言うと、バラバラとキャンディーやらラムネ菓子やらクッキーやらが戸口の上のほうから落ちてきた。 「・・・お、このクッキー美味い」 「そりゃー屋台村で評判の」 「もうねーの？」 「・・・もう喰ったの？」 「うん。他にはもうねーの？」 それから三十分か一時間もしないうちに、胡散くさい方が言った。 「・・・ごめん、もう無い」 「もうねーの？」 「うん、全部なくなった・・・」 時計を見ると、ちょうどそろそろ『法廷』食堂の夜定食が出始める時間になっていたから、俺はにーちゃんが出してくれたコーヒーを飲み干して立ち上がった。 「んじゃ俺はそろそろメシ喰いに帰るわ。ごちそーさん」 誰かが「・・・メシって、食事のこと・・・だよね？」とか言ってた気もするけど、俺は気にせずにさっさと店を出た。 今日の晩飯は何にしよーかな。 カツ丼と、親子丼と、カレー大盛りと、チキンドリアと、クリームシチュー定食と、月見うどんと、ハンバーグ定食と・・・デザートは団子と柿ようかんにしようかな。ああそうだ、翡翠にも何か奢ってやんないと、あいつすぐメシ抜かすしな。夜定食でいーかな、どうせアイツあんまり喰わないし。 ああ腹減った。 早く帰ってメシ喰おうっと。 ・・・そういやあのクッキー、凄く美味かったな。 明日もまた行こう。 いや、ハロウィンてのは良い祭りだな。うん。 |