創業２０００年３月２８日
次の キリ番 は「５００００」です。
本体最終更新日 18/09/02
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ＥＮＴＥＲ
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「よう、少年課のエース」 それまでじっと黙って考え事をしていた千里の背中をばしっと速水が叩いた。叩かれたことによって意識がやっと外へ向いたらしい千里は、一瞬何を言われたのか理解できなかったようだが、すぐにむっとした表情で速水を見返した。 「相変わらず嫌がらせを言うのは上手いですよね」 「お前が黙っているときは何か良い考えがある時だ。だろ？」 からかいに嫌味で応じても、まるで無視、である。眉を寄せてイヤな顔をして見せる千里に、宗佑が言った。 「何、おたくら、知り合い？」 「残念ながら、高校の時の部活の先輩なんです」 「で、涼子は大学の時の先輩、か。キミ、イイ学校出てるのかもしれないけど、もうちょっと付き合う先輩は選んだ方がいいと俺は思うぞ」 「選べたら苦労してないと思いませんか？」 「あら、海原くん、言いたいことがあったらはっきり言って良いのよ？」 にっこり微笑む笑顔が凶器に見えるのは気のせいだろうか。顔をひきつらせながら手を振る千里に釣られて、宗佑も何故か手を振りながら、必死で話題を変えるべく速水に話を振った。 「そういや速水さん、アンタさっき何か言ってたね、良い考えがどうとか」 「ああ、・・・いや、元々海原は大しておしゃべりってワケでもないが、今日はヤケに言葉数が少なすぎると思ってね。特に俺たちの中じゃあガキの相手をしている経験は一番多い。何か俺たちが見過ごした、大事なものを見つけたんじゃないかと睨んでいるんだが？」 少年課のエース、という言葉自体はある程度のからかいは混じっているものの、全くの嫌がらせというわけでもない。警察官として、先輩として、千里の能力をそれなりに高く評価しての言葉なのだ。 「大事、っていうか・・・ビデオに違和感を感じたのは確かなんですが」 「映っているのはあの二人じゃない、ってこと以外にか？」 「ええ、まあ・・・」 自分でも自信がないのか、煮え切らないように言葉尻を濁していた千里だが、自分一人で考え込んでいても先に進まない、むしろ今は急を要する場面であることが、裏付けのないただの「印象」を口にすることを選ばせたようだ。千里はデッキに近づいて、もう一度ビデオを再生させた。 「この二人は非常に準くんと光くんに似ています。光くんはそれを、準くん、光くんのどちらか、もしくは二人に大して悪感情を持っている人間が自分たちに罪を着せるために仕組んだことだと判断したようですが、俺はそこに違和感を感じているんです」 「・・・悪意以外のものがあるっていうのか」 「一番おかしいと思ったのは、光くんに似ている少女の存在です。もしも光くんに対して悪意があるのなら、もっと上手くやるはずだと思いませんか？」 「例えば、アリバイを無くすとか？」 「それもありますけど。もっと単純に、首にスカーフか何かでも巻きつけておけば、喉仏がない、なんて致命的な別人である証拠を残さずに済んだと思うんです」 「でも、これだけ似ていれば・・・」 「ぱっと見ただけでは区別がつかないほど似ていますし、何しろ猛スピードでの追跡中の映像ですからね。だけど、光くんは気づいたし、そのカットを見た俺たちも確かに別人だと認めた。スカーフを巻くくらい、アリバイを無くすなんてことよりずっと簡単ですし、多少腕のいい弁護士なら、これくらいのことはすぐに気づいたと思います」 「準は？」 「何もしなくても結構似た体格ですから、細工の必要性を感じなかったという可能性もあります。でも、ここまで大きな事故を意図的に起こして、それを彼らの責任にするためなら、服装を似せたり、同じオンダ、同じ型のバイクを使うとか、そういう簡単にできる細工があるはずなのにそういった形跡が見当たらない」 そして、映像の殆どラスト部分ではっきりと見える「レッド・スネイク」の文字。 「何より、レッド・スネイクの文字を入れることはしないでしょうね。今、新宿で準くんのチームが絶対にレッド・スネイクを名乗らないことは誰でも知っています。・・・まあ、まさか「赤マムシ」呼ばわりされたから、なんて理由だとは流石に誰も知らないことだと思いますけど」 苦笑して宗佑に視線を移した千里は、ビデオを一時停止させた。 「俺には、この画面に『ジュクの準』や光くんへの悪意を感じられないんです。感じるとしたら、むしろ」 「憧憬・・・」 ぼそりと呟いた宗佑に、千里は頷いてみせた。 「少女の方はわかりません。ただ偶然似ていただけなのかもしれませんが、少なくともバイクに乗っている少年の方には『ジュクの準』への憧れがあって、姿を真似ているだけに思えるんです。実際、準くんのチームへ入ることは難しいんですよ、とても。いや、不可能といっていいかもしれないくらいに」 「どうして？一般車両が多かったせいとはいえ、小隊長の追跡を振り切っただけの腕があるのよ？」 「彼のチームは、『チーム』とは名ばかりで、他のチーマーやカラーギャングたちのように、メンバーがどうだの共通の服装や色があるだの、そういう縛りが全くないんですよ。以前はともかく、今の彼には徒党を組んでどうこうという意思がないんです」 「だけど、『ジュクの準』という通り名と、彼が声を掛ければ集まる子たちの数は・・・」 「多いです、確かに。悔しいけれど、下手な警察官の結束力とは比べ物にならないくらいの強固な繋がりを持っていますし、『ジュクの準』といえば、新宿でちょっと突っ張って見せている子たちで知らない人間は居ないといってもいいかもしれない。でも、いつも固まって行動しているわけじゃないんですよ。さっき、本人も言っていたでしょう？」 『俺ら別にいっつもつるんでるわけじゃねーしな。』 「いざというときには集まり、団結する。ヘッドの言うことは絶対。だけど、それ以外の縛りはないんです。おまけに、彼はいわゆる暴走族でも走り屋でもないから、自分の気が向いたときに、たまたま近くに居る仲間と走るくらいです。それも、普通の道ではちょっとスピードを出し過ぎなんじゃないか、というレベルの走り方しかしない。周囲の思惑はどうあれ、当人にとってはチームと言っても普段は全く実態のない、気の合う仲間同士が時々遊ぶレベルです。そんなところへ入りたい、と言ったところで、器がなければ入るも何もないでしょう？」 「難しい、っていうのはそういう意味か・・・」 「彼らは今、自分たちに悪意を抱いている人間を探しているはずです。俺たちは逆に、彼ら、特に『ジュクの準』に対して強い憧れを持っているような少年を探し出せば、あの少年にたどり着けるはずだと思うんです」 千里の話に耳を傾けていた速水は、しばらく静止したモニタを見つめていたが、やがてふっと息を吐き出した。 「やっぱり餅は餅屋だな。・・・嶋村、今日一日、ホンブを抑えておけるか？」 「誰に訊いているのかしら、小隊長？」 にっこり笑顔で火花を散らす二人の姿は、誰がどう見ても「大物任侠のガンの飛ばし合い」だ。ここが警視庁内だということもうっかり忘れそうになる。 「海原、西ジュク管内に噂を流してくれ。交機隊は血眼になって準を探そうとしている、と」 「湾岸で叩くつもりで網を張るらしい、ってこともですね？」 「ああ」 「新宿から湾岸への合流ルートは何本かありますけど、ちゃんとそちらで塞いでもらえるんでしょうね？」 「大丈夫だ、最終的には検問を作る。こちらの思惑通りのルートで来ればよし、ダメでもそこでアシがつく」 具体的な方法論こそ判らなかったものの、大体彼らが何を考えているのかを理解した宗佑は、肩を竦めて言った。 「俺は車をもってなくてよかったと今、心の底から思ったよ」 「どうして？」 「こんな、暴走族よりおっかねえ親分に追っかけられるのは絶対にイヤだね」 |
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